No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
Cross Talk

「異質な知能」こそAIの本質

── 徳井さんの中で、音楽活動とAIの研究がどのように繋がったのかに興味があります。

徳井 ── ICCで見たカール・シムズの作品に影響を受けて入ったのが、人工生命と人工知能の研究室です。それと同時期に音楽活動を始めるようになったのですが、自分のやりたいこと、興味があることと研究をうまくミックスできたらいいなという動機がありました。その結果、人間の創造性をテーマに「表現と人工知能」について研究したい、と教授に直談判したのですね。

博士論文もSONASPHEREを含めて書きました。「人間がコンピューターをどう使っていくか」という内容で、単純に人間の道具としてのコンピューターではなく、ある種の「相棒」だったり「外部の環境」としてコンピューターをとらえ直してみようと。そうすれば、コンピューターの新しい使い方ができるし、新しいインタラクションを得られるのではないかという提案をしました。

── 徳井さんが立ち上げた「Create with .AI」という活動も、AIと一緒にものや作品をつくっていくという趣旨ですよね。

「Create with .AI 人工知能と表現の今」
[図4] 「Create with .AI 人工知能と表現の今」
〈AI と「表現」、人間の「創造性」の未来を考える上で興味深い「論文」「デモ」「作品」「記事」などを紹介するサイト〉http://createwith.ai/

徳井 ── そうですね。

畠中 ── その他にも、徳井さんはAIがサポートしてDJをプレイする音楽のイベントを真鍋(大度)さんとやってきましたよね。

徳井 ── AIがある未来の音楽イベントはどうなっているのか、いろんな角度で実験する場としてやっています。僕はAIと自分が1曲ずつ交互にかける「back to back」というスタイルでDJをやっていますが、真鍋さんは「完全にAIにやらせたらどうなるか」というスタンスでやっているので、少しスタンスが違うんです。

Create with .AIなどでいつも言っているのは、「AIは人間の模倣ではない」ということです。これは「WIRED」の編集長であるケビン・ケリーの言葉ですが、AIはArtificial Intelligenceではなく、Alien Intelligenceの略だと。賢い存在ではあるが人間ではない、「異質な知能」なのだという主張です。あるいはもっというと異星人、エイリアンの知能だと。そういうふうに捉えたほうが、AIと人間の付き合い方がよほど面白くなる。

何かものをつくる時、AIが人間の模倣に過ぎないとしたら、今まで人間がやってきたことの枠からそれほどは外れません。でも、ある種全然違う存在として捉えることで、人間が持っている想像力の限界や固定観念みたいなものを打破できるのではないでしょうか。

徳井 直生氏

AIが曲を選んでDJプレイ

徳井 ── 僕はAIとの関係では、Create「by」ではなく、「with」であることが大事だと言っています。DJも同じようにやっていて、僕一人では絶対かけないような選曲をAIがすることによって、パフォーマンスにある種の緊張感が生まれるのが面白いんです。

畠中 ── 実際にどういう感じなのか気になりますね。

徳井 ── 僕が想像している曲をAIが全然選んでくれないのです。例えば、昨年10月にやったイベントで、僕はリハーサルの時に有名なテクノの曲をかけました。人間だとまたテクノの曲を選ぶのがセオリーなのですが、AIはたまたまレコードボックスの中に入っていたフリージャズの曲をなぜか選んだ。絶対に合わないと思ったら、意外にもそのミックスが良かったんです。「こんな選曲があるんだ」と感心して「覚えておいて自分で使おう」となりました。

しかし、本番で逆のことが起きました。僕がリハーサルでかけたテクノの曲を、今度はAIが選んだのです。「これはチャンスが来た!」と思い、例のフリージャズのレコードをかけたつもりだったのですが……僕がA面とB面(裏表)を間違えてしまい、ダサいディスコみたいな雰囲気になって場が一気に壊れてしまいました(笑)。

畠中 ── AIはどういった基準で曲を選んでいるのですか?

徳井 ── 僕が今つくっているのは、人間が先にかけている曲と雰囲気が似ている曲を選ぶというシステムです。今はひとまず一定の雰囲気をキープするところを目標としています。

これからもっと進化させるとしたら、お客さんの反応などをフィードバックしながら、それに合わせて選曲するという方向性です。「ここは盛り上げるところだな」とか「お客さんが疲れてきたみたいだから、ちょっとトーンダウンしようかな?」といった上げ下げみたいなことをAIができるようになるといいですね。

畠中 ── 先ほど(クロストーク前編)の言語ベクトル空間のように、それぞれの曲をセマンティック(意味論的)に扱えるなら、そうした反応やノリを、意外性も含めてコントロールすることをAIが学習していけるのでしょうね。

徳井 ── まさにそこが鍵となるところで、最初は人間のDJの選曲を学習させていたのです。人間のDJのプレイリストをたくさん集めてきて、学習させて「こういうアーティストやこんなジャンルの次には、この曲が来る」といったことを教えていました。でも、そうすると自分の想像内の提案しか得られなくて。「まぁ、そうだよね」という結果にしかなりませんでした。

そこでプレイリストの学習は完全にやめて、人間が決めたジャンルに関係ないところで、音響的な特徴だけを見て、雰囲気が似ている曲を選ばせることにしたのです。人間にとってはある種の間違いに感じることもありますが、実は人間が気がつかなかった可能性みたいなものを提示してくれる瞬間がある。それが面白いんです。

── 間違いがクリエイティビティの源泉になるというのは、とても興味深い話です。

徳井 ── やっている本人は本当にヒヤヒヤです。毎回、自分が普段DJをやるときの3倍くらい疲れるんです(笑)。

畠中 実氏と徳井 直生氏

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