No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
Scientist Interview

デジタル技術で五感に訴える

── デジタル技術は、目的や状況に合った臨機応変の表現や、伝えにくいメッセージを際立たせるための表現などに向いていそうですね。

鈴木 ── そうですね。スーパー浮世絵と同時開催した、和食とは何かを再認識してもらうためのイベント「食神さまの不思議なレストラン」展でも、和食の背景にある世界の広がりを表現するために、デジタル技術を活用しました。日本では料理学校で日本料理を学ぶ人はどんどん少なくなっている状況ですが、海外では和食のお店が増えると同時に、独自の進化を始めています。和食の神髄を経験できる高級日本料理店には、若い世代ではなかなか行くことができず、そういった現状から、もっと身近なところで、若い世代にも和食の素晴らしさを知るきっかけを作りたいと思い、企画しました。

このイベントでは、和食とは何かを「見る」「触る」「聞く」「嗅ぐ」「食べる」といった五感で体感してもらうために、デジタル技術と本物の体験を掛け合わせました。和食を最後に食べてもらって理解を完成させるという点は、最初から決めていたことです。最終的に食べるまでの催しの中で、季節感といった和食が大切にしていることを感じてもらい、さらにはお米や出汁、お箸など和食には欠かせない要素の背景を理解してもらうために、デジタル技術を使用しています。

「食神さまの不思議なレストラン」展
[図4] 「食神さまの不思議なレストラン」展
食文化を学ぶ部屋で、手をかざすと箱が開き、和食に関する様々なアイテムが現れる。親子で手をかざして愉しむ様子。

例えば、季節と食材の関わりを表現するため、特殊なスクリーンに映し出した映像により、四季を表現した空間を作り、人の動きに反応するセンサーによって、季節の移り変わりや、春はフキ、夏は大根といった旬の食材を見せる工夫をしました。こうした表現は、映像を映すだけでも足りるように感じますが、一方通行のメッセージにならずに記憶に留めるためには、身体を使うことでお客様の体験を作り出すことが大事だと考えています。

「食神さまの不思議なレストラン」展「食神さまの不思議なレストラン」展
[図5] 「食神さまの不思議なレストラン」展
四季をテーマにした部屋。8面の半透過スクリーンの奥とパノラマスクリーンで構成し、奥行きと広がりを表現。映像の変化に応じて、上部の提灯の光も変化し、季節や空間の変化が楽しめる(左)。手をかざし、映像を変化させている様子(右)。

また、お米の背景にある大地の恵みを表現するためには、ちょっと新しい方法を用いました。直径180cmくらいの大きなお茶碗を作り、その中にお米を盛ったのです。来場者がお米に触れて、砂遊びをするように盛ったり削ったりすると、できた凹凸をセンサーが感知します。そして、等高線をプロジェクションマッピングで映すことで山や池が描かれた地図のように見せました。お米を触ることで、お米を育んだ大地という存在を直に感じてもらいたかったのです。

「食神さまの不思議なレストラン」展「食神さまの不思議なレストラン」展
[図6] 「食神さまの不思議なレストラン」展
米との対話をテーマにした部屋。お米に触れることで、変化するプロジェクションマッピング。お米が大地から育まれて生きていることを表現(左)。お米に触れたり、掴んだりすることで、高さを検知し、映像が変化。等高線や田園が現れ、大地を表現(右)。

デジタル技術で表現を多様化できる面白い時代

── デジタル技術をうまく使うと、面白い表現ができるものですね。

鈴木 ── 現在、様々な新しい技術が出てきているので、よりよい表現方法を探し求めている私たちのような立場からすれば、面白い時代かもしれません。実際、過去にはできなかった表現が、デジタル技術を使う環境が身近になったことで、簡単で安価に実現できるようになってきています。かつては、プロジェクションマッピングのコンテンツを制作できる人間はほんの一握りでしたが、今はソフトとパソコンがあれば誰でもできるようになりました。ただし、そんな時代だからこそ、余計にそのコンテンツの質が重要になっているようにも感じます。

私たち自身はイベントの企画会社ですから、今後は我々が求めている世界観や空間を表現できる技術を持つクリエイター、技術者の方々と協業していきたいと考えています。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.