No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載01 コネクテッドカーが本格稼働
Series Report

専用通信から汎用へ

実は、コネクテッドカーという概念は10年前からあった。当時は、テレマティクスと呼ばれ、自動車メーカーが携帯通信ネットワークを利用し、独自の渋滞情報などのサービスを提供していたが、サービス加入者はあまり増えなかった。カーラジオが提供する無料の渋滞情報で既に事足りており、課金をしてまで受けたいと思うサービスではなかったからだ。また、携帯通信ネットワークからインターネットへの接続の煩雑さもあった。

その後、最初にコネクテッドカーというべきテクノロジーが搭載されたのは、電気自動車(EV)だった。初期のEVは、航続距離が200km程度しかなく、エアコンに電力を使えば、航続距離はさらに減少し、実際には百数十kmしか走れなかった。ガソリン車と違い、EVはバッテリ内の電荷がなくなると突然停止する。リチウムイオンバッテリは、ある時点から電荷が急速に失われるという特性を持つため、ドライバーが安心してハンドルを握れるようにするためには、充電スタンドの配置情報を提供しなくてはならなかった。

そのため自動車メーカーは全国に散らばるEV用の充電スタンドの場所を地図上に表示するだけではなく、あと何km先に充電スタンドがあるのかをEV車に知らせていた(図2)。そしてこれを行うためにはクルマ内のバッテリ残量を把握し、その情報を顧客対応センターにつなげ、自動車メーカーのセンターへ常にクルマの情報を送る必要があった。

EV用の充電スタンドの場所をクルマに知らせる
[図2] EV用の充電スタンドの場所をクルマに知らせる
出典:日産自動車ホームページ

接続のメリット

クルマは徐々にインターネットやセルラーネットワークとつながるようになり、スタンドアローンではなくなってきている。クルマをインターネットにつなげると、どのようなメリットがあるだろうか。スマホやパソコンでグーグル検索することと同様に、後方座席の車載ディスプレイにスマホと同じ画面を表示することも可能だし、サービス提供者との会話を通してレストラン情報やエンターテインメント情報を得ることもできる。

さらに今注目されているのは、SOTA(ソフトウエア・オーバー・ザ・エアー)と呼ばれる技術だ。これは、ECUのプログラム情報をワイヤレス通信によって書き直すというサービスで、経時変化でセンサやECUの特性が変わってしまった場合にセンサ信号の参照信号レベルや回路の基準点からのズレを、車検などを通して修正するものだ。これまでのクルマは、ディーラーやショップへ持っていき、ECUボードを外してプログラムを書き換えていた。SOTAを使えば、ディーラーへ運ぶことなく、自宅に駐車したままソフトウエアを書き換えることができるのである。

また、クルマがクラウドとつながっていれば、音声入力の精度が抜群に上がる。これまで音声入力は、クルマ内のコンピュータで行っていたが、コストとの兼ね合いから認識率の低いソフトウエアを焼き付けたチップしか使われてこなかった。このため音声で行き先やレストラン、検索するショップなどを常に認識できるとは限らず、精度が悪かった。

ところが最近、マイクロソフトのクラウドを通した実験では、同社のAI(人工知能)を使うことによって音声の誤認識は5.9%まで減少したという。すなわち、クラウドという計算能力の優れたコンピュータとAIを使うことによって、認識率を上げることができるようになった。クラウドを使うとは、クルマが24時間インターネットとつながっているということを意味する。運転中の音声入力は、ドライバーがハンドルから手を放すことなく操作できるため、事故を防げるという観点からも注目されている。

また、国内の大手半導体メーカーがある記者発表会のデモでは(図3)、駐車場における満車・空車情報をリアルタイムでクラウドに収集・保存しながら、クルマを自動運転で空いたスペースに駐車させていた。こういった何気ない応用までも、インターネットとつながったクラウドを利用するようになってきている。

デモ車を試作し駐車場への自動運転を実現
[図3] デモ車を試作し駐車場への自動運転を実現

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