No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載01 コネクテッドカーが本格稼働
Series Report

必要なテクノロジー

V2VやV2Xなどの接続に使われるワイヤレス技術に簡単に触れておこう。なぜ、レーダーやWi-Fi、GPSで縦列走行ができるのか。まずレーダー技術は、昔から軍事用に飛行物体を検出したり、気象では厚い雲を見つけたりするのに使われてきた。レーダーは波長の短い電波を発射し、何も物体がなければ電波は反射されないが、飛行機などがあれば、電波が反射されて戻ってくる。

電波の波長は短くなればなるほど、光のように直進性が増すという性質がある。このためクルマでは77GHzというミリ波(波長がミリメートルの単位)を利用し、前方の物体(クルマや人、モノなど)を検出する。ちなみに電波の波長がもっと長ければ360度放射される。そのためテレビや携帯電話の電波は360度カバーできる。

またWi-Fiの電波の波長は2.4GHz帯を使うが、この程度だと360度に広がる。V2VやV2XではWi-Fi規格の一種であるIEEE802.11pという規格を利用している。この規格は、スマートフォンやパソコンなどで使われるWi-Fi規格の802.11a/b/n/acなどとは異なり、通信距離が1km程度で送信パワーも大きい。時速数十kmの移動中でも送受信をできるようにするためだ。

GPSはカーナビゲーションシステムで昔から使われてきた位置情報を検知する技術で、地球上の位置、東経・北緯・南緯などの地球上の座標情報を知ることができる。この場合、衛星からの電波を受けるだけではなく、クルマの位置を知らせる電波をクルマ側からも発信している。電波を送受信することで定位置の衛星と、動き回る地上のクルマとの位置情報を知ることができる。

本格普及は5Gから

ワイヤレスでつながるには、サイバー攻撃をされないような対策が必要になる。いわばセキュリティの確保だ。No.11の連載01「クルマの安心・安全技術」(参考資料2)で紹介したように、クルマのコンピュータシステムに何の防御技術も搭載していなければ、クルマもハッキングされてしまう。このため、セキュリティ技術を確立する必要がある。

また、コネクテッドカーは、好むと好まざるとにかかわらず、全てのクルマがつながるようになり、無事故の交通手段へと発展していく。それも将来の通信技術として5G(第5世代のセルラー通信技術)と深く関係する。5G技術の定義の一つにデータレートの10Gbpsとは別に、1ms以下のレイテンシ(応答時間の遅れ)という要求がある。これは、例えばクラウドを使う場合に1/1000秒以内で応答しなければならないという規約である。つまり、音声入力にクラウドを使ってもほとんどリアルタイムで答えてくれることを意味する。

このため、コネクテッドカーが本格化するのは5G時代になる。5G技術、音声認識のAI、クラウド利用がセットになって、クルマをより安全に動かせるようになる。このために昨年秋に、欧州のクルマメーカーを中心に「5G Automotive Alliance」というコンソシアムができた。ドイツのBMW、アウディ、メルセデスベンツといった自動車メーカーに加え、エリクソン、ファーウェイ、ノキアなどの通信機器メーカー、インテル、クアルコムの半導体メーカーなどが集まってこのコンソシアムを結成した。

5Gへの通信機器や半導体はクルマの仕様をさらに賢く、さらに事故を減らし、より安全なモビリティへと進化させていく。日本のメーカーは「5G Automotive Alliance」設立時には参加していなかったが、2016年12月にデンソー、2017年1月にNTTドコモが参加した。コネクテッドカーは5G時代にクルマのテクノロジーをリードする中核技術へと発展していくであろう。ここにはIoT、AI、5G、クラウドといった将来技術の全てを駆使して実現するからだ。一刻も早く日本勢の多くの参加を望む。

連載第2回は、コネクテッドカーの具体例や技術の中身、連載3回目はセキュリティと5G Automotive Allianceについての進展などを紹介する。

[ 参考資料 ]

1.
Corridor to Drive, European Truck Platooning
https://www.eutruckplatooning.com/About/Corridors+to+drive+MAP/default.aspx
2.
「クルマの安心・安全技術:安全技術はスマートカーへと拡大、サイバーテロ対策も必須に」
テレスコープマガジン、No.011、連載01、2016.09.30

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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