No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載02 電脳設計者の天才的な設計
Series Report

自然な見栄えの意匠デザインを生み出す

電脳設計者が設計することで、人が設計したものよりも見栄えが自然な工業製品が出来上がる可能性が見えてきた。この点をさらに強調し、意匠デザインにコンピュータを使おうとする試みも出てきている。

デザインユニット・トリプル・ボトム・ラインは、揺れる水面や波紋、渦などをコンピュータで再現し、これをつり下げ照明のシェード内部の反射板や卓上灯の拡散板の設計に生かしている(図6)。たとえば、水の流れを定式化した流体方程式に入力するパラメーターを、最適化技術で決定する。すると、自然な印象を与える光と影を作り出す造形と、実用的な機能の両立を図れるのだ。こうして作り出したシェードなどの形は、既存の照明に比べてかなり複雑なものになる。このため、生産には3Dプリンターを用いている。

シェードの反射板の形に応用した例卓上灯の反射板に応用した例
[図6] 流体方程式で水面の動きを再現した照明
(左)シェードの反射板の形に応用した例、(右)卓上灯の反射板に応用した例。
出典:トリプルボトムラインのホームページ

設計とデザインにもAI活用の波

ここまで紹介してきた、電脳設計者に使われている最適化と呼ばれる技術には、現在話題の人工知能(AI)は使われていない。従来のICT技術の延長線上にある技術だけで、これだけインパクトが大きいものになっている。ただし、工業製品や建築物の設計や意匠デザインの分野で、AIを活用しようとする試みは既に始まっている。

オートデスク社は、ジェネレーティブデザイン(電脳設計者を利用した設計手法)へのAI応用を研究している。実際に、ハック・ロッド社と共同で、オフロード向けレーシングカーの骨格構造の設計案作成にAIを使った事例もある(図7)。この例では、既存のレーシングカーに約100個のセンサーを取り付けて砂漠を走行させた。そして、センサーで取得した車体とドライバーに影響を与える物理的な力のデータをAIに学習させ、そこから分かった傾向を基に電脳設計者が骨格構造の設計案を作り出す。つまり、最適化の制約条件や設計変数の設定を、膨大なデータを基にしてAIが決めているのだ。さらに、設計案を具体化するために必要な部品の推奨案もAIが提示する。その他にも、設計中の部品の形状をAIが観察し、その部品に形の近い既存部品を提案するという設計支援システムの商品化を、富士通社などが検討している。

AIと電脳設計者が連携してレーシングカーの骨格構造を設計
[図7] AIと電脳設計者が連携してレーシングカーの骨格構造を設計
出典:ハック・ロッド社のホームページ

また、グーグル社から独立したベンチャー企業のフラックス社は、用途(病院や学校)、建物の意匠、構造、設備などの要素データを含んだ「建物の種(seed)」を3次元モデル化した敷地に置くだけで、最適な建物をAIが自動設計する技術を開発している。人間の設計者は、自動設計された建物モデルの詳細を、法規制を遵守するように位置や高さ、長さなどを調整するだけで設計が完了してしまう。複数の棟からなる建物であれば、それぞれ棟の位置をずらしたり、引き延ばしたりもできる。すると、渡り廊下や鉄骨、配管なども自動的に生成され、詳細な3Dモデルが出来上がるのだ。

電脳設計者と人間の設計者がいかに連携し、新しいものづくりの姿を構想していくべきか、真剣に考えなければならない段階に入っている。連載第3回は、電脳設計者の台頭で開く未来のものづくりの姿を解説する。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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