No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Cross Talkクロストーク

科学×エンタテインメントのアイデア

黒田 有彩氏

黒田 ── 系外惑星の研究がいろんな技術の掛け合わせで進んでいるとおっしゃいましたが、私も宇宙ビジネスに関して同じような気持ちで見ています。みんなが自分の得意なものと宇宙を掛け合わせたら、どんな化学反応が起きるだろうと思っていて。誰も手をつけていないブルーオーシャンだからこそ、宇宙を遠いとか難しいとは思わずに、それぞれのテリトリーの中から宇宙と関連させるものができればいいし、そこに宇宙ビジネスの芽が生まれると思うんですね。

井田 ── 何か具体的なビジネスの構想があるのですか?

黒田 ── 今年の夏から10月末にかけて、官民両方が協賛して「S‐Booster 2017(エスブースター2017)」というビジネスアイデアコンテストが開かれ、私はそれに応募してファイナリストに選んでいただきました。そこで2ヶ月ぐらいかけて、メンターの方と一緒にビジネスアイデアをどんどん詰めていく作業に取り組んだんです。

すると、宇宙に行ってやりたいことがたくさん思い浮かびました。エンタテインメントと宇宙をつなげたくて、ALE*9がやっている人工の流れ星を見せるような、サイエンスとエンタテインメントを掛け合わせるようなビジネスをやれたらいいなと思ったんです。宇宙にスタジオのような施設をつくって、無重力でしかつくれないアートとか、無重力でしかできない食べ物とか、放射線を当てたらすごく美味しくなるような食材とかできないかと。

S‐Booster 2017のファイナリスト全員と審査員、ゲストの集合写真
写真提供:S‐Booster 2017実行員@内閣府
S‐Booster 2017のファイナリスト全員と審査員、ゲストの集合写真。

国のお金ではなかなかできないアートやエンタテインメントといった分野を、民間のビジネスで形にできないかなと。生きていくために欠かせないものではないけれど、感性の部分に訴えて、心を豊かにさせてくれるものを生み出す空間をつくりたいと提案しました。

井田 ── そういった日常的・物質的な利便性からはかけ離れた形で豊かさを追求するというのは、基礎科学と共通するものがあって、聞いていて興味深いですね。

黒田 ── ただ、ビジネスアイデアというからには、2〜3年後といった短期間で結果に結び付く計画案が求められましたし、実際にビジョンをどうやってお金にしていくか、そのためにはどこと組むのかといったことを考えなくてはいけなくて。ビジネスだから当然なのですが、なんだか宇宙への憧れや夢といったキラキラしたものが現実に落とし込まれて、次第に「広い宇宙のことを考えているのに視野がすごく狭くなっていく」ように感じました。結果として、いくつかあるアイデアの中から妥協案のようなものを選んでしまったことは後悔しています。

宇宙に上がってから生きる技術も多い

井田 ── そのコンテストでは、他にどんなビジネスアイデアが出たのでしょうか。

黒田 ── 受賞していたのは、麻酔科の先生のアイデアでした。今までISS(国際宇宙ステーション)などでは麻酔を使うことができなかったんですね。

── 以前テレスコープマガジンに登場してくださった宇宙飛行士の山崎直子さんも麻酔がない状況下で、ペンチで歯を抜く訓練があったとおっしゃっていました。

黒田 ── その先生は手のひらサイズの麻酔などを、もう特許を取ってつくられているんです。それがISSで利用できるかもしれないと。今ある技術が宇宙と掛け合わせられたとき、どんなふうに人の生活を豊かにしてくれるんだろうと、改めて思わせられるアイデアでした。

いったん宇宙に行ってまた戻ってきたとき、宇宙での経験が雨のようにみんなに降り注いで恩恵をもたらしてくれるような、そういう技術がたくさんあることを知ったんです。

井田 ── いろいろな分野で技術は猛烈に進歩していると思います。AIもそうですが、他の例としては、生命系の研究者との共同プロジェクトで実感した遺伝子解析技術があります。ちょっと前まで人間の遺伝子を解析することは1つの国ではできないぐらいの世界的なプロジェクトでした。いろいろな国が解析する部分を分担してやっていたのですが、今では予算では10万円ほど、期間だと1日くらいで遺伝子を解析できるようになって、医療も大きく変貌しようとしています。生命系研究者との共同プロジェクトでも毎年、聞く話が変わっていきました。

別に何かすごい技術が発見されたわけではなくて、やっぱりテクノロジーの積み重ねです。それがだんだん一般的になってきて、さらに民間にも開放されるようになると、競争が起きて自然にレベルが上がっていく。そうした技術が宇宙ビジネスに上がってきたとき、どんなことが起きるのかと考えています。

[ 脚注 ]

*9
ALE: 人工衛星から、人工の流れ星を流す事業(Sky Canvas)の開発をしている国内のベンチャー企業。
http://star-ale.com/
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