No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Cross Talkクロストーク

チャレンジが好循環を生み出す

井田 茂氏

井田 ── 宇宙ビジネスの話では、まず規制緩和があって、民間に新たなフィールドがバンと開放されたわけです。これまで未開拓の分野なので、アイデアがあればどんどん進出できる。開放されて久しい分野というのは、有象無象がひしめき合っていますから、まっさらなところに飛び込んでいって自分のアイデアと力で道を切り開くというのは、シンプルに楽しいだろうなと思うんですね。

それは学問も同じです。さっきの系外惑星みたいな大発見があると新たなフィールドがバンと広がって、誰も手をつけていないから、もうアイデア勝負で好きなだけ道を切り開いていける。ビジネスの世界ではこれまでいろいろな方向へフィールドを広げてきたと思うんですが、実は地表に縛られていた。しかし、これからは宇宙という「縦方向」にフィールドを広げていける。これは単にビジネスフィールドが広がるというだけではなく、果てしない宇宙へとつながっているというところが、シンプルにすごく楽しいと思っています。

黒田 ── 本当にワクワクしますよね。スペースX社がスペースシャトルのように再利用できるロケットの実験を行っているのを見ると、誰が見てもワッと思うでしょうから。

井田 ── これまでのように官が主導していては、やっぱり国民の税金を使っていますから失敗が許されません。「100%の成功率でロケット飛ばしてください」という要求は、おそらくJAXAの研究者にとってもなかなか辛いものがあると思うんです。エンジニアが何かチャレンジしたいと思った場合、そこには当然リスクがある。でも、求められているものは100%の成功なんですから。なおかつ税金であれば、ちゃんと国民に利益を還元しなきゃいけないといった具合にいろいろな制約条件があります。

それに対して民間でやる場合は、失敗があったとしても、みんながチャレンジを応援してくれるところがあります。どんどん挑戦を重ねていけばコストが下がってきますから、すごくチャレンジングなことをやって失敗しても、コスト面もそんなに問題ではなくなるという好循環が生まれます。

黒田 ── そのことで学問の分野にもいい影響がありますか?

井田 ── ええ。われわれのような研究者、科学のコミュニティーにとっても大きなプラスがあります。まずコストが下がることで、研究者が個人レベルで探査機や宇宙望遠鏡をロケットを使って打ち上げようと思えば上げられるようになります。「こんな探査をしたいから、こういう望遠鏡を宇宙に打ち上げてみようか」という時代がもうすぐ実現できるようになるのではないでしょうか。

われわれの世代は、宇宙探査は国家がやるものだと思っていました。でも、最近の若い研究者の話を聞いていると、「ちょっとロシアのロケットに装置を乗せてもらって」みたいなことを普通の感覚で言うんですね。すごく身軽になっているんです。

さらに宇宙ビジネスが本格化すれば宇宙はもっと身近になるし、研究者たちがどんどんチャレンジングに装置や望遠鏡を打ち上げられるようになれば、科学も飛躍的に進んでいくと思うんですよ。そういう道を切り開くのにはお金がかかるから、最初は官がやるにしても、その後はやっぱり民間でビジネスにしてもらうのが理想です。そこに科学のコミュニティーや国の研究者が相乗りさせてもらえたら、すごくいい形だなと思います。

【後編のあらすじ】

後編では、井田教授が有人惑星探査といった宇宙ビジネスが本格化する際に懸念される課題を解説。宇宙飛行士を目指す黒田さんは、宇宙空間に行って取り組みたいことを十代の頃に訪問したNASAでの経験から語ります。ふたりが宇宙や物理の分野に惹かれていった道筋からは、科学とビジネスがどう交差できるかのヒントが浮かび上がります。

対談を終えて

Profile

井田 茂氏

井田 茂(いだ しげる)

1960年生まれ。東京工業大学教授。

京都大学理学部物理系卒。東京大学大学院地球物理学専攻修了。
東京大学助手を経て93年、東京工業大学地球惑星科学科助教授に就任。現在は、東京工業大学地球生命研究所教授。
著書『地球外生命体』『系外惑星と太陽系』『系外惑星ー宇宙と生命のナゾを解く』など多数。

黒田 有彩氏

黒田 有彩(くろだ ありさ)

1987年兵庫県神戸市生まれ。タレント。

お茶の水女子大学理学部物理学科卒業。
作文コンクールで入賞しNASAを訪問したことをきっかけに宇宙のとりこに。
宇宙飛行士の試験に必要となる専門分野での“実務経験”を「タレントとして宇宙の魅力を発信すること」と定め、JAXA宇宙飛行士試験の受験を目指している。
2017年4月から文部科学省国立研究開発法人審議会臨時委員に就任。
共書に『宇宙女子』がある。twitterアカウントは @kuroari_rtts

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK