No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載01

デジタル時代で世の中はどう変わるのか

Series Report

小さなコンピュータがあらゆる所に浸透

1980年代後半に登場したスーパーコンピュータ「クレイ2」よりも、アップル社のiPadの方が性能は高く、消費電力は低く、価格は圧倒的に安い。しかも、大きさを格段に小さくすることが可能になった。また、コンピュータシステムと同じ構成を取りながらコンピュータではない装置は、組み込みシステムと呼ばれている。これが通信機能を持てばIoT端末やセンサ端末と呼ばれ、今後大きく期待される分野になっているが、これも小型化により実現した製品だ。

メモリを介してCPUで演算や制御を行うコンピュータシステムを、従来のような企業の大きなシステムだけではなく、もっと身近にあるモノ、例えば玄関のドアノブやエアコンなどにも組み込んだものがIoTである(図2)。IoTが組み込まれた製品は、いつどのような状況で動作させたかという履歴データを得られるようになる。すると、ユーザーは外出先からでもドアの施錠の有無やエアコンの稼働状態の確認などを行えるし、メーカーは各ユーザーの特性を知り、それをマーケティングに利用しビジネス効率を上げることができるのだ。

[図2] 玄関のドアノブやファン、エアコンにIoTを導入、インターネットに接続する
出典:Ayla Networks
玄関のドアノブやファン、エアコンにIoTを導入、インターネットに接続する

つまり、これまでエレクトロニクスとは無縁だった、照明やドアノブ、エアコン、冷蔵庫などにもエレクトロニクスや半導体を取り入れ、業務を改革したり、生活を便利にしたりできるようになったため、新しいイメージを表す言葉である「デジタル化」が登場してきたのである。

ITに対してOTという言葉も

インターネットやコンピュータを利用するサービスをIT(Information Technology:情報技術の略ではあるが、本質的には技術ではない)と呼んでいるが、ITという言葉が浸透してきた今、ITを活用しない労働環境をあえてOT(Operational Technology:運用技術)と呼ぶことも増えてきた。

いま、ITというべき3次元CADやCAE(シミュレーションツール)などを活用して、現場(OT)の状況をパソコンなどの身近な製品で表現できるようになった。例えば工場で働く人間やライン、作業台をグラフィックスで描き、実際の作業状況をパソコン画面上のシミュレーションツールで見ることができる。作業台から次の工程の作業台までの距離を画面上に表し、その距離をもっと短くする長くするなど最適化のシミュレーションを行い、現場の作業時間の短縮を図り効率を上げる。グラフィックスによる画面上の人間の手の位置や身長なども表現しておけば、手が届きやすい位置に作業台があるのかどうかといったこともわかる。これは、実際に工場のラインを設計する場合にたいへん役立つ。

現場の状況をITで再現するとデジタルツイン

このように実際の現場をコンピュータで全く同じように再現したITの世界を「デジタルツイン(デジタルの双子)」と言う。デジタルツインを使って、現場を構築する前から現場の作業や製品そのものをシミュレーションすることで、設計ミスや設計変更をなくし、短期間で製品を市場に出すことができるようになる。それも、従来は平面図に描いた設計図(2次元CAD)であったものが、コンピュータグラフィックスを駆使する3次元CADへと変わってきた。2次元CADでは専門家しか製品や現場をイメージできなかったが、3次元CADになると経営者や顧客にも直感的に理解しやすい。こうしたITとOTの融合は、「サイバーフィジカルシステム」「IT/OTシステム」と言われることもある(表1)。

[表1] 現実とITの言葉の対比
作成:津田建二
現実 仮想
現場・図書館・モノ インターネット
OT(Operational Tech) IT(Information Tech)
フィジカル サイバー
実験 シミュレーション
コンピュータ(オンプレミス) クラウド
セミナーイベント ウェブ情報提供
IoT
デジタルツイン
インダストリー 4.0 /インダストリアルインターネット
サイバーフィジカルシステム
AR/VR

また、バーチャル(仮想)という表現は、実際の現場をグラフィックスなどコンピュータ画面上で表すことに使われる。グラフィックスとは、コンピュータ上で絵を書いたり作図したりする技術である。だからゲーム機で遊ぶ人たちはグラフィックスに慣れ親しんでおり、VR(仮想現実)という言葉にも抵抗がない。VRは、まるで自分が現場にいるような感覚にさせるマシンである。いまのところ主な用途はゲームで、その没頭体験を強めるために、ゴーグル型のデバイスを用いて体験させることが多い。ゲーム以外でも、建築物や工場などを臨場感のあるグラフィックスで表現することもでき、例えば不動産屋でマンションの間取りを体験させるVRもある。

これに対してAR(拡張現実)は、現実のビデオ映像にグラフィックスを重ね合わせて、そのグラフィックス画像が動くなどの表現を行うシステムである。ゲームの中では「ポケモンGO」に出てくるキャラクターがARの代表例である。実際のカメラ映像にポケモンが重なって動く。ARもゲーム以外の分野でも用いられており、例えば工場のモータやポンプなどに取り付けたIoTデバイスにスマホやタブレットをかざすと、モータの回転数やポンプでくみ上げる液体の流量などのデータをARで見せるシステムも実用化*1している。

[ 脚注 ]

*1
テレスコープマガジン013号Series Report連載01 第2回「事例は産業用IoTの世界から」でも取り上げている。
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