No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

進む「光」の活用、太陽電池で動く携帯電話機も登場

光をエネルギー源としたエネルギーハーベスティングは、ハーベスタとなる太陽電池の技術開発が比較的進んでおり、得られる電力も大きい。このため、実用性と使い勝手の両面で、活用する環境エネルギーの第一候補になる。時計や電卓など、光をエネルギー源として既に電源コードの撲滅を達成した応用機器も多い。

屋外に置いた太陽電池ならば、10㎠のハーベスタの面積で1W以上の電力が得られる。消費電力がこれより大きな機器や小さな面積の太陽電池しか利用できない場合でも、システム構成上の工夫で利用可能になる場合もある。たとえば、機器を使っていない時に発電した電力を蓄電し、まとめて使う方法だ。

太陽電池は、みな同じように思えるが、利用環境の違いに応じて特性を最適化して作る必要がある。基本的に、太陽電池は特定波長の光を最も効率よく電力に変換する。どの波長に最適化するかは、太陽電池を構成する材料と素子構造による。例えば、太陽光は様々な波長の光が混じり合った白色光である。一方、蛍光灯やLED照明など夜間や室内で用いる照明は、特定波長の光の強度が強い。白色LEDの光は、一見太陽光に似ているように見えるが、波長分布が可視光に偏っているため、赤外線や紫外線のような見えない部分をエネルギー源に使うことはできない。

また、室内照明のエネルギー密度は、太陽光の1/100〜1/10000にすぎないため、太陽光向け太陽電池を室内で利用しても効率よく電力を得ることはできない。室内照明をエネルギー源とする場合に特に変換効率が高い太陽電池として、色素増感型太陽電池*1があり、すでに実用的な応用例もある。中国のZTE社は、色素増感型太陽電池を搭載した携帯電話機を発売し、アフリカなど電力事情の良くない地域でヒット商品となった(図4)。

[図4] ZTE社の太陽電池で利用できる携帯電話機「Coral-200-Solar」
出典:ZTE社のニュースリリース
ZTE社の太陽電池で利用できる携帯電話機「Coral-200-Solar」

様々な波長の光が入り混じった太陽光のエネルギーを余すことなく活用するには、特性の異なる複数の材料を積層して、電力に変換する範囲を広げる方法が効果的だ。太陽電池の素材としてよく使われるシリコンは、電力に変換できる波長の範囲はそれほど広くはない。一方、銅、インジウム、セレンを原料とするCIS太陽電池など化合物系の太陽電池は、組成や構造を工夫して特性を調整しやすい。このため、いくつかの材料を併用することで、変換効率を高めることができる。

人間の体温で、携帯電話を充電できる電力を生み出す

熱をエネルギー源としたエネルギーハーベスティングは、モーターやエンジン、工場やビルの配管など人工的な発熱源、または人の体温など生物が発する熱を電力に変えるものだ。熱ハーベスタには、温度差を電力に変えるペルチェ素子を使うことが多い。

ペルチェ素子とは、「ゼーベック効果」という物体の両端に温度差があるときに電圧を生じる現象を利用した熱電素子であり、ゼーベック効果の大きな半導体や金属などを使って構成される。通常のペルチェ素子では、10㎠の範囲から熱エネルギーを収集すると、人工的な発熱源では10mW、人の体温からは100μW〜1mWの電力を得ることができる。

近年、熱電素子の高効率化が急激に進んできた。例えば、韓国科学技術院(KAIST)は、ペルチェ素子をガラス繊維に付着させて布地に加工できる技術を開発(図5)。人の体温から、気温20℃の条件で、10cm四方の素子から約40mWと高い電力を得ることに成功している。発電効率の高さもさることながら、フレキシブルな布地に加工できるという特徴が、利用シーンを広げる上で重要だ。同じ素子を人が着用できる上着の面積まで大きくすると、携帯電話の充電にも利用可能な約2Wの電力が得られるという。

[図5] ガラス繊維に付着させたペルチェ素子により、高効率で熱を電力に変換
出典:KAISTのニュースリリース
ガラス繊維に付着させたペルチェ素子により、高効率で熱を電力に変換

[ 脚注 ]

*1
色素増感型太陽電池: 光が当たると電池中の色素が励起状態となり、電子を放出する原理の太陽電池。
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