No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

第3回
蓄電の進化が完全コードレス化を加速

2018.02.28

文/伊藤 元昭

電力も無線で送る

電気・電子機器の完全コードレス化のインパクトは、単にケーブルが1本消え去るだけにはとどまらない。ソニーの携帯型再生専用音楽プレーヤー「ウォークマン」の登場で、どんな場所でも音楽が自由に楽しめるようになり、人々の生活や文化は大きく変わった。今後、より多くの電気・電子機器の完全コードレス化が実現し、これまで持ち出せなかった機器を自由に利用できるようになれば、とてつもない変化が起きることだろう。電源コードをなくすための技術について解説する連載第3回は、完全コードレス化する機器を広げるために欠かせない「蓄電」と「省電」がテーマだ。特に、近年、目覚ましい進歩を遂げている、蓄電デバイスの最新技術開発動向について詳しく紹介する。

データをやり取りするネットワークやインタフェースの無線化が進む電気・電子機器。電源コードは、その活用範囲を制限する最後の縛りとなっている。この連載では、電源コードをなくすための2つのアプローチ、「電力を地産地消する技術」であるエネルギーハーベスティングと、「電力を無線で伝送する技術」であるワイヤレス給電について解説してきた。これら2つのアプローチは、電源コードをなくし、電気・電子機器の完全ワイヤレス化を実現する上で有効な技術である。しかし、いずれも万能とは言えない(図1)。

[図1] 電源コードをなくす2つのアプローチは万能ではない
作成:伊藤元昭
電源コードをなくす2つのアプローチは万能ではない

光や振動、温度差といった身の回りにあるエネルギーを電力に変えて利用するエネルギーハーベスティングは、電池交換などのメンテナンスなしで活用できる可能性があることが最大のメリットだ。しかし、得られる電力がいかんせん小さすぎる。現時点では、携帯電話機が必要とする電力を取り出すのが精一杯だ。高性能なノートパソコンや産業用ロボットを動かす電力を得ることは難しい。もちろん、大型のハーベスタ(環境エネルギーを基にした発電機)を利用すれば、メガワット級の電力も得ることができる。しかし、電源コードがなくなっても、今度は大きなハーベスタが足かせとなり、電子機器の自由を奪ってしまう。

一方、ワイヤレス給電は、電気自動車(EV)の充電手段として実用化に向かっていることからも分かるように、かなりの大電力を給電できる。しかし、電源コードがなくなっても、送電機は一定の位置に固定して置かれる。このため、送電範囲内でしか、電気・電子機器を利用することはできない。また、送電範囲内であっても、送電機から距離が離れれば送電効率がガタ落ちして、実用的ではなくなる。電源コードからは解放されるが、これでは見えない鳥かごの中にいるようなものだ。

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