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決められた手順に沿って仕事を正確・迅速にこなすコンピュータは、人工知能(AI)へと進化し、過去のデータから問題解決の方法を自ら学べるようになった。しかし、どんなに優秀なAIでもデータがなければ解法を学べない。何が起きるか一切わからない環境の中で、事前データがないまま問題を解決する ―― そんなAIが手出しできない問題解決に挑む方法を研究しているのが、東京工業大学の小野 功准教授である。未解決問題への取り組みは研究者や技術者に課せられた責務。そんな研究者や技術者の仕事を一気に加速させる可能性を秘めるのが小野研究室の研究する「進化計算」である。今回は同研究室を訪ね、科学技術の新たな武器となる進化計算の魅力と学生とともに新たな道を拓く取り組みについて聞いた。
(インタビュー・文/伊藤 元昭 写真/黒滝千里〈アマナ〉)
野村 ── 学部時代にゲーム画面上のスーパーマリオを上手に自動操作する動画を見て、強く興味を持ちました。動く方向やジャンプ動作などの組み合わせを最適化し、なるべくステージの先に到達することを目指すというものです。その自動操作に遺伝的アルゴリズムという手法が使われていたため、気になって遺伝的アルゴリズムの論文を何本も読んだのですが、小野先生の論文がたくさん引用されていたのに気づき、研究室見学に伺ったのが始まりです。
野村 ── 現在は博士課程に入ったばかりなので、修士過程時代に取り組んでいた汎用的なブラックボックス関数最適化問題の高速化に関する研究を続けています。このテーマでは、2つの手法を作りました。ひとつは100次元程度までを対象にしたもの。もうひとつが1,000次元や1万次元の問題にも適用できるものです。
このうち高次元の問題への適用を想定した手法を利用して、後輩が2018年にJAXAが出した月面着陸の位置を決める進化計算コンペティション[1]に参加し、2位の約1/3の評価回数で最適解を発見することができ、1位になりました。課題は2次元の問題だったので、好結果が得られたことに私も驚きました。開発した本人が気づかなかったような新しい手法の利用法を、後輩が別の視点から見つけてくれたところが面白いですね。
野村 ── 私はサイバーエージェントに入社後、会社の仕事は続けたまま修士課程でお世話になった小野研究室に再度入りました。社内では、機械学習手法のハイパーパラメータ・チューニング技術を研究しています。サイバーエージェントにはグループ会社が100社以上あり、機械学習技術を利用したサービスが数多く存在します。 しかし、例えばディープラーニングを活用する際には、用途に応じてネットワークを一から設計し直す必要がある場合も存在し、それが大きな負担になっています。ハイパーパラメータ・チューニング技術は、そうした作業を自動化する技術です。
私は、修士課程での研究テーマの成果をハイパーパラメータ・チューニング技術に適用しようとしています。完成すれば、ビジネス面でのインパクトがとても大きい技術です。ディープラーニングに限らず、あらゆる機械学習、さらにはデータベースやサーバのチューニングなどにも展開できると考えています。
野村 ── 小野研究室には先生も学生も積極的にディスカッションする雰囲気があり、研究の「楽しみ方」を学べる研究室だと思います。ディスカッションをしていく中で考えが整理されていったり、多くの知見を先生から得られたりするので、そこで研究が加速していくという実感があります。先生はお忙しいと思うのですが、一人ひとりに時間を割いてくださるので、それに何とか応えたいという気持ちが芽生え、がんばれます。ディスカッションは習慣化していて、修士課程を終了したあとも別の会社で社会人をしている同期と、週末にLINEの通話機能を使ってミーティングをしています。
野村 ── 小野先生は研究も真摯に指導してくださいますが、研究以外のことにも親身になってくれるので人として尊敬できる方です。研究室見学に行ったとき、その時点では研究テーマを全く理解できていなかったのですが、そんな僕に対しても学生生活など研究以外のことまで丁寧に話してくれました。研究室は狭い環境なので、そこでの人間関係はとても大切です。研究も魅力的でしたが、大学院入試を決めたのは先生の人柄に惹かれたところが大きいと思います。