No.011 特集:人工知能(A.I.)が人間を超える日
連載01 テクノロジーの進歩と共に交通事故死は減少
Series Report

第1回
テクノロジーの進歩と共に交通事故死は減少

 

  • 2016.07.29
  • 文/津田 建二

クルマの機能は、主に「走る」、「曲がる」、「止まる」という技術が基本とされるが、ここ数年、安全を重視する技術が注目されるようになってきた。日本では、テクノロジーの進歩とともに、交通事故死は確実に減少。すでに人口一人当たりの事故死は、中国やインドの1/10以下、米国と比べても半分以下のレベルに達している。制御が難しい酒酔い運転に対しても、テクノロジーの面から防ぐ試みが始まっている。この連載では、クルマの安全技術、これからの安全技術を解説するとともに、究極の自動運転に必要なテクノロジーは何かについて議論していく。

クルマはコンピュータに

日本は世界に名だたる自動車生産王国である。トヨタ自動車は世界でも一二を争うメーカーに成長した。自動車にエレクトロニクス、コンピュータを導入することで排ガス規制を乗り越え、環境に優しいクルマ作りを、世界の先頭に立って推進してきた。排ガス削減、燃費改善、安全性の向上などは、米国が産業保護政策のために出遅れており、日本と欧州が進んでいる。両社がコストを抑え、クルマの環境や性能を改善することができたのはマイコン(マイクロコントローラ)という半導体チップを使った制御技術の進化が大きく関わっている。

交通事故死の推移とECUの数は逆相関の図
[図1] 交通事故死の推移とECUの数は逆相関
作成:津田建二、警視庁、立命館大学の数字をベースに作成

トヨタ自動車が2009年から2010年にかけて大規模なリコールを行ったことは記憶に新しい。原因の一つにソフトウエアのバグ(不具合)があった。このため、新聞記者の中には「コンピュータ化するからそのような不具合が生じるのだ」と言ってはばからない者もいた。しかし、この認識は正しくない。クルマがコンピュータ化すればするほど、交通事故死は減少していっているからだ(図1)。

図1では、交通事故死とECU(マイコン搭載の電子制御ユニット)の関係を示したが、このECUこそコンピュータなのである。ECUの中にはマイコンやメモリなどが入っており、車内のネットワーク(有線)でつながったセンサからの信号を処理し、データ制御に使ったり、データを基にモーターの回転数を最適にして省エネで動かしたりする。ソフトウエアによって機能を追加したり変えたりすることもできる。ECUは高級車なら1台に60~70個、大衆車でも20~30個搭載されているといわれている。普段、私たちがボタン一つで窓を開けるという動作もECUが可能にしている。

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