No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載04 次世代UI(ユーザーインターフェース)
Series Report

第1回
コンピュータを使いやすくする
ユーザーインターフェース

 

  • 2016.02.02
  • 文/津田 建二

コンピュータとその利用者が、情報をやりとりするために生まれたユーザーインタフェース(UI)は、これまで、人がコンピュータを使いやすくするために進化を続けてきた。そして、いま、コンピュータのプラットフォームがスマートフォンになり、UIは人間の手の操作に近いユーザーエクスペリエンス(UX)と言われるようになってきている。この先のUIはどうなるか。キーワードとして、最近注目されているのが、コンテキストアウェアネス(CA)である。次世代のスマホやクルマなどにこのCAが搭載されていく見通しである。連載第1回では、そのような道筋が描かれる背景を探るため、UIの進化を紹介し、UXへと変化してきたプロセスをとりあげる。

最近、少しずつ浸透しつつある言葉として、コンテキストアウェアネス(CA)というものがある。直訳すると、「文脈を知ること」という意味になるが、「これまでの活動履歴からこれからの行動を予測し、サービスを提供するテクノロジー」のことだ。例えば、散歩を1時間もしていると、ちょっと休憩したくなるものだが、そのような時に近くのコーヒーショップから今日のお薦めコーヒーのクーポンがスマートフォンに届くと、つい寄りたくなる。このようにこれまでの行動からこれからの行動を予測してサービスを提供することをコンテキストアウェアネスと呼ぶ。これが次世代のユーザーインターフェースとして本格化しそうだ。

コンピュータはUIの歴史でもある

これまで、コンピュータと人間がやり取りするテクノロジーをユーザーインタフェース(UI)と呼んでいた。画面に表示されるプルダウンメニューやマウスによる操作性など、人間が機械であるコンピュータをできるだけ優しく使えるようにするための仕組みである。コンピュータの歴史は、誰もができるだけ簡単に使えるように、UIが進化してきた歴史でもある。今後期待されるUIとして、なぜコンテキストアウェアネスが注目されているのか、その背景となるUIについてその歴史を簡単に振り返ってみよう。

コンピュータは、ソフトウエアプログラムを書き換えることで、色々な作業を行わせるための「汎用の機械」である。このためハードウエアは1台の機械にすぎないが、そこに載せるソフトウエアを書き変えることで、機能を変えてしまうことができる。コンピュータの概念を生み出したとされる英国の「アラン・チューリング」の数奇な人生を描いた映画「イミテーションゲーム~エニグマと天才数学者の秘密」(http://imitationgame.gaga.ne.jp/)の中では、アラン・チューリングは「僕は専用の暗号解読機を作るのではなく、汎用のマシンを作りたい。プログラムを変えることでいろいろな暗号に対応できる」と述べている。

映画「イミテーションゲーム~エグニマと天才数学者の秘密」公式ページの図
[図1] 映画「イミテーションゲーム~エグニマと天才数学者の秘密」公式ページ
http://imitationgame.gaga.ne.jp/

コンピュータは、ソフトウエアプログラミングによって、ハードウエアプラットフォームにさまざまな機能を持たせることができる。計算するマシンにもなるし、日本語の文章を作成するワープロにもなる。ブラウザやメーラーというソフトを使えば、インターネットと接続され、メールの送受信やホームページの作成もできるようになる。

とはいえ、相手はなにせ機械である。コンピュータは原理的に、1と0だけを電気のオン・オフに対応させて表現する機械である。1と0のデジタル数字で表される機械語でプログラムするのは大変な手間がかかる。そこで、フォートランやコボル、C/C++等のプログラミング言語が用いられるようになった。さらに利便性が追求され、1970年代、米ゼロックス社パロアルトリサーチセンターのアラン・ケイ博士により、マウスやプルダウンメニューが考案された。アラン・ケイが作った新型コンピュータAltoを見に行った二人のスティーブが起こした会社がアップル社だ。一人は言わずと知れたマーケティングを担当したスティーブ・ジョブズ、もう一人はコンピュータを設計製造したスティーブ・ウォズニアックである。ウォズニアックは、アラン・ケイの生み出したコンピュータAltoを見ただけで、マッキントッシュコンピュータを作ったと言われている天才エンジニアだ。

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