No.010 特集:2020年の通信・インフラ
CROSS × TALK 社会向けICTをオリンピックで実現 ダイジェストムービー

人間とテクノロジーの関係を考えるとき、スポーツを題材にとると新たな方向性が見えてくる。オリンピック・パラリンピックの開催を2020年に控える東京では、情報通信技術(ICT)がどう活用されるのだろうか。その結果、姿を現すのはどんな社会なのか。ICTを東京オリンピック・パラリンピックに導入する推進役の坂村 健教授が、過去3大会連続でオリンピックに出場した「侍ハードラー」こと為末 大氏と自由な意見を交わした。

(構成・文/神吉 弘邦 写真/ネイチャー&サイエンス)

1964年、東京オリンピックで実現したこと。

坂村 ── 2020年になると成熟したインターネット社会を背景に、IoT社会が訪れます。あらゆるモノがネットにつながって現実社会の状況がわかり、世界が大きく変わる可能性が出てくるのです。省力化も進み、いろいろな場面で人手が減ります。

オリンピックもそうです。大昔はオリンピックの採点を集計するのに、何カ月もかかったらしいですよ。競技が終わった後、すぐ表彰式がなかった時代があったそうです。

為末 ── 今はリアルタイムで出てきますね。

坂村 ── 前回、東京オリンピックが開催された1964年、実はあのとき初めてコンピュータで集計されたんです。東京で重要なエポックが生まれているんですね。初めて衛星中継で海外にリアルタイムで映像を流したオリンピックも、ちょうどその時です。こうしたテクノロジーの進化を多くの人に注目してもらうのに、やはりオリンピックは重要です。

為末 ── 世界に向けてわかりやすいプレゼンの場になりますからね。オリンピックが来ることになったので、このムーブメントを機に、どうせやるはずだったことが加速して出来るようになるんじゃないかと思うんです。

IoT化もそうですし、高齢者へ向けたサポートもそうかもしれません。2020年に向けてガッとみんなが前向きになった今、うまく文脈に載って実現すればいいなと思います。オリンピックの後も東京や日本は続いていくのですから。

 

誰でも100mを9秒台で走れる靴はできるか?

坂村 ── オリンピック会場の高揚感というのは、経験した方じゃないとわからないけど、やっぱりすごいものですか。

為末 ── 大きいですね、興奮は。とにかく人が多いんですよ。

坂村 ── みんなが見ているわけでしょう。その舞台に何回も立たれた。

為末 ── あんな興奮を味わえる機会は、なかなか無いですよね。それに多くの選手が言うのは、オリンピックもそうなんですが、ピークパフォーマンスのときの体で感じる感触にすごく心地よさがあるんです。野球だと狙ったところに打てるだとか、僕だと自分が「ベルトコンベアーに乗っているみたいにスピードが出た」とか。

現役時代の最後の方では、栄光を求める気持ちなど、過去のピークの時の感覚をもう1回味わいたいと、選手は思うことがあります。ああいう身体で感じる喜びというのは、どうも人間って大きいんじゃないかなと思います。

坂村 ── そうでしょうね。

為末 ── だから、僕が身体拡張のテクノロジーで興味があるのは「誰でも9秒台で走れる靴」などの実現です。

坂村 ── オリンピックに出るような経験をお持ちの方、競技に出られるような方でないと、その感触はわかりません。為末さんがスポーツ用の義足を開発している方法は、プロダクトの開発においてあるべき姿だと思いました。その感触をうまく開発者やエンジニアに伝えて、どのようににしたらいいのかというアドバイスがないと「9秒台で走れる靴」は生まれないでしょうね。

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