LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

最近では、削減を依頼するのではうまくいかないということで、米国などで社会実験が行われているのが「ダイナミック・プライシング」です。ダイナミック・プライシングでは、需要ピークを予測してその時間帯の電気料金を上げる、あるいは時間帯ごとに異なった電気料金を設定したりします。各家庭やオフィスでは、スマートメーターから情報を得て消費電力や電力料金を「見える化」する装置を入れて、電気料金を自ら減らすように行動してもらうのが目的です。
全てのユーザーにスマートメーターを導入するには、膨大な投資が必要で、節電効果は10%程度です。
なぜ、見える化による節電に大きな訴求力がないのかといえば、需給バランスを取ることの重要性がユーザーにとってピンと来ないことに加え、日々省エネに励むのは大変だからです。

ユーザーが主体的にエネルギーマネジメントを行う必要性

──太陽光発電など、今では需要家側でも電力を生み出すようになってきました。

そう、家庭やオフィス自体が発電所になり、自分たちでエネルギーという資産を持つようになってきたわけです。ならば、自分たちで資産をマネジメントしようという動きが起こるのは当然でしょう。分散型電源でユーザーが自律的にエネルギーマネジメントができる社会を作ろうというのが僕らの考え方です。ヨーロッパでは、大規模な太陽光発電や風力発電などを電力事業者が行っていますが、僕らの考え方はユーザーが自ら発電、蓄電、制御さらには電力を売買する主体になろうという点が異なります。

──太陽光発電などの自然再生可能エネルギーは、変動幅が大きく、不安定という問題があります。

系統電力は、一定の電力を安定供給してくれさえすればよいのです。不安定な電力は、広域グリッド(系統電力網)とは別にユーザーサイドの電力制御システム内で処理し、完結する仕組みをつくればいい。僕はこの仕組みを「ナノグリッド」と名付けました。ナノグリッドは電力マネジメントの単位であり、小は家やビルの部屋やフロアから、大は地域ということになるでしょう。
現在、エネルギーに関して我々は消費するだけです。自らがエネルギーマネジメントを行うことは、いわば主体性の確立です。
米国の南北戦争でリンカーン大統領は「全ての人に市民権を」と言いましたが、我々自身がエネルギーという資産を主体的に管理する市民になるべきなのです。
もちろん、系統電力網の安定は重要ですので、ユーザーサイドのナノグリッドとのインターフェイスをどうするかという視点でスマートグリッド化を考えることが必要だと思います。つまり、本来は、供給者視点のスマートグリッドとユーザー視点のナノグリッドの両者が必要なのに、ともするとスマートグリッドばかりが強調されるので、ユーザーサイドのエネルギーマネジメントの重要性を主張しているわけです。
ネットワークの自律分散化によって社会がどのように変化するかは、情報通信ネットワークの歴史を見ればよく分かります。かつてコンピュータは、神殿のような部屋に収められていて、そこから多くの端末が放射状に繋がり、情報は、中央集中型、スター型のネットワークによってコンピュータから端末へ一方向に流れていました。それが今では一人一人がパソコンやスマートフォンを持って、分散化、個人化された複雑なネットワークの中で双方向に情報が行き交っています。また、自由化された情報通信サービス分野では、激しい競争の結果、次々と新しいサービス、機能が生み出され情報社会が実現されました。
分散型電源関係の技術は進歩が著しく、パソコンの黎明期のような状態にあります。太陽光発電、コージェネレーション、蓄電池など、自分でエネルギーをマネジメントするための道具はすでに存在しています。

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