LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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理論

エネルギーが使い放題になる日は来るのか?

エネルギーと情報は本質的に似ている。
エネルギーとITが融合する「エナーネット」が可能にする社会を考える。

  • 2012.4.1
  • 文/山路達也

[写真]「エナーネット」について講演するロバート・メトカーフ
Photo Credit : Cockrell School of Engineering, University of Texas at Austin

エネルギーと情報。一見異なるものだが本質的に似ているところがあるという。それはどういうことなのだろうか?家庭やオフイスで使われるLANケーブルの規格であるイーサネット*1を発明したロバート・メトカーフは、エネルギーがネットワークで相互に融通しあう「エナーネット」というコンセプトを提唱している。情報はブロードバンドで使い放題になった。ではエネルギーもそうなるのか?ITとエネルギーが融合した先にあるエネルギー網の姿を探る。

異なるようで似ている、情報とエネルギー

新しい産業分野として、エネルギーに注目が集まっていることに疑いを持つ人はいないだろう。自然再生可能エネルギーを筆頭に、さまざまな新エネルギーの可能性が検討され、ベンチャー企業には資金が流れ込んでいる。また、スマートグリッドではエネルギーの需要を計測し、効率的なエネルギー網を実現しようとしている。
多くの人にとって、これらの取り組みはエネルギーという産業分野の話だ。エネルギーを作り、供給するのは電力、ガス、石油といった企業だと思われている。スマートグリッドでは、需要・供給のバランスを取るためにITが活躍するが、それはあくまでもエネルギーが主で、ITが従である。
日本でもメガソーラー(大規模太陽光発電)で原発は置き換えられるのか否か、スマートメーターの導入を急ぐべきといった議論が起こっているが、基本的には、餅は餅屋、エネルギーはエネルギー事業者に任せることが前提になっている。

イーサネットを発明し、「エナーネット」を提唱したロバート・メトカーフ
[写真] イーサネットを発明し、「エナーネット」を提唱したロバート・メトカーフ

その一方で、エネルギーの扱いについて、従来とは異なる考え方も注目されるようになってきている。中でも目立つのがIT分野からのアプローチだ。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは次世代型原子炉の研究開発に対して積極的に投資を行っているし、Googleは太陽熱や風力といった自然再生可能エネルギーへの投資を進めている。
IT分野の企業が、エネルギー分野に乗り出すのはなぜか。単純に、エネルギー分野の成長が有望と見て、IT長者が金をつぎ込んでいる?実は、ITが扱う情報とエネルギーは、本質的に似通ったところがある。例えば、エネルギーを扱う熱力学では乱雑さを示すエントロピー*2が重要な概念となっている。電気工学者のクロード・シャノン*3はエントロピーを用いて情報量を扱う情報理論を完成させ、これがITの基盤になった。熱力学は情報理論の一分野であると考える研究者も少なくない。
そして、ITとエネルギーの融合を端的に示しているのが、ロバート・メトカーフによる「エナーネット」のコンセプトだ。

イーサネットを発明したメトカーフ

メトカーフは、現代のコンピューティングに欠かせない技術を発明した一人である。それは「イーサネット」だ。1973年、ゼロックスのパロアルト研究所に在籍していたメトカーフは、パーソナルコンピュータの先駆けである「Alto」同士を接続して情報共有を行うためにイーサネットを開発した。イーサネットはIEEE(米国電気電子技術者学会)の標準規格にもなり(802.3規格)、数多くのメーカーが対応製品を発売。1970年代から80年代にかけては、いくつかのメーカーが独自のLAN(Local Area Network:限られたエリアでコンピュータ同士を接続するためのネットワーク)規格(例えば、アップルのAppleTalkやIBMのトークンリング)を発表していたが、イーサネットはオープンな規格であったこともあり、LAN市場を制することになる。メトカーフ自身は3Com社を創業し、イーサネット関連製品の開発・販売で巨万の富を得た。

世界中のオフィスや家庭で使われているLANでは、イーサネットが通信方式として採用されている。
[写真] 世界中のオフィスや家庭で使われているLANでは、イーサネットが通信方式として採用されている。

その後もイーサネットの進歩は続いており、初期に10Mbps(1秒間に1Mビットのデータを送れる)だったデータ転送レートは、100Mbps、そして現在では1Gbpsのギガビットイーサネットがパソコンなどに搭載されている。また、10Gbps、40Gbps、100Gbpsの規格も策定され、広いエリアでのネットワーク、いわゆるWAN(Wide Area Network:広域でコンピュータ同士を接続するためのネットワーク)でもイーサネット技術が用いられるようになった。
LANの普及、さらにインターネットの隆盛を目にしたメトカーフは、1995年に「メトカーフの法則」を提唱している。これは「ネットワークの価値は利用者数の約二乗に比例する」という経験則だ。要するに、ネットワークの利用者が増えると、そのネットワークの価値が飛躍的に高まるということ。Web、あるいはFacebookなどのソーシャルネットワークを日常的に使っている人なら、この法則は皮膚感覚として実感できるだろう。

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