LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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欧米の最新事例が示すスマートシティのビジョン

低炭素化という共通目標の元、国、都市によって全く異なる背景を読み解き、
スマートシティの裾野を広げる。

  • 2012.4.1
  • 文/今泉大輔

[図版]ドイツのマンハイム・モデルシティのプロジェクトイメージ図
Photo Credit : MVV Energie Press Image

「スマートシティ」はまだまだ漠としたイメージを持った言葉だ。20世紀のSFにありそうな近未来都市を思い浮かべる人も多いだろうし、CO2削減を徹底的に推し進めたエコロジカルな住環境を想起する人もいるだろう。いずれにしても、内外のスマートシティづくりは着手し始めたばかりで、完成までには5〜20年程度かかる。その完成像をはっきりと思い描くためには、現在のプロジェクトが何を目指しているかを理解することが早道だ。特に欧米の事例は日本とはまったく異なる背景を持っており、スマートシティの視野を広げてくれる。

世界のスマートシティの共通目標

スマートシティに関する興味を「スマートシティを形作るテクノロジー」に絞り込むと、推進の主体は電力会社と東芝、日立、IBMといったテクノロジーベンダーになる。なぜなのだろうか?
世界のどのスマートシティにも共通する大目標は、地球温暖化に対処できる近未来都市の実現。一言で述べると「低炭素化」だ。これを実現する方法は大きく二つに分かれる。一つは、交通機関が排出するCO2の削減。もう一つは、個人や企業のエネルギー利用が排出するCO2の削減だ。前者を見ると、日本の東京や大阪のように毎日数百万の人が電車で移動する都市は世界に例がない。多くの都市では都市鉄道網が未整備で、人が移動するためには車を使わざるを得ず、それが慢性的な交通渋滞に結びついている。排出されるCO2も膨大だ。本格的に取り組むとなると新たな鉄道建設などで膨大な予算がかかるため、多くの都市では手が出せない。
そのためテクノロジーを活用するスマートシティプロジェクトは、自然とエネルギー利用のCO2削減を目指すものになり、主体が電力会社かテクノロジーベンダー中心となる。
日本の経産省が取り組んでいるスマートコミュニティ実証実験もそうだ。各実験は横浜市や北九州市などの自治体に事務局があるが、元来、産業振興の目的を持った予算を用いるプロジェクトなので、実質的な主体はテクノロジーベンダーになっている。総じてテクノロジーに光が当たっているスマートシティは、どの国においても電力会社かテクノロジーベンダーが推進していると言っていいだろう。

EUが実施する二つのスマートシティ政策

EUでは二つのスマートシティ支援政策が動いている。一つは"Reference Framework for European Sustainable Cities"。エコロジー、エネルギー、持続可能な開発の三要素を調和した都市を実現するために「ひな形」を提供しようというプロジェクトだ。現時点では、EU各国の自治体官僚がスマートシティを実現するための計画を作成できるツールが提供されている。ガイダンスに沿って戦略目標、自都市の状況などを入力していくと、バランスの取れたスマートシティを実現するプロジェクト計画ができる仕組みだ。これはあまり予算を使わずに「頭脳」を提供するタイプの支援政策。
もう一つは予算措置を伴うもので、"SETIS" (Strategic Energy Technologies Information System)と呼ばれている。二十四件ある支援対象プロジェクトのほぼすべてがスマートグリッド系だ。以下ではそのなかから、言及されることが多いドイツ・マンハイム市とポルトガル・エボラ市で進められている実証実験の中身を見てみよう。

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