LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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日本で進む「お家の中」の標準化

HEMSの標準化は日本の家電メーカーが設立した「エコーネットコンソーシアム」が進めている。同団体は97年から活動を開始しており、当初はヘルスケアやホームセキュリティのための家電機器相互接続を目的としていた。1999年にECHONET Ver.1.0をリリース。外出先から携帯電話でエアコンや給湯器をコントロールしたり、宅内のセキュリティカメラの映像をチェックすることができるようになった。同コンソーシアムは継続的な改良を続けて2007年にVer.3.6を出し、2009年には国際標準化が完了して活動は一段落した。
その後、スマートメーターやデマンドレスポンスをキーワードとする米国のスマートグリッドの華々しい動きが日本にも伝わってきた。デマンドレスポンスに関連したHEMSについては家電メーカーが強い日本の力量が発揮できる場ということで、2010年からHEMSの標準づくりの気運が高まった。当時はどこが標準化作業を行うべきか議論があったが、エコーネットコンソーシアムがこれの受け皿になった。すでに様々な機器を接続して包括的なコントロールをかけられるようになっているECHONET Ver.3.6をベースにすれば、HEMSで想定されている利用方法もすぐに実現できるからだ。
3.11震災後はここに経産省の後押しも加わる。経産省としては電力需給逼迫を解決する方策の一つとして、スマートグリッドの推進が重要だと考えた。家庭内にHEMSが普及し、電力ピーク時に家電製品が自動的に電力消費削減に動いてくれれば需給が大きく緩和する。日本製のHEMS標準作成はにわかに緊急性を帯びることになった。

ECHONET Liteによる実現する様々なエネルギー機器が連携したスマートハウス
[図表1] ECHONET Liteによる実現する様々なエネルギー機器が連携したスマートハウス。(出所:エコーネットコンソーシアム資料“報道関係者向け説明資料 エコーネットの概要”)

その結果として2011年12月に一般公開されたのが「ECHONET Lite」である。ECHONET LiteはVer.3.6をベースとして、現在の無線LANなどの通信技術を組み込みやすいように通信関連の規定が簡素化されている。また、HEMSを意識してコントロールできる機器に太陽光発電、蓄電池、燃料電池、ヒートポンプ、スマートメーターなどが加わった。このような改革は何を実現可能にするのだろうか。

日本のHEMS標準で何が可能になったのか?

HEMSの典型的な利用方法は、電力ピーク時に家庭内の様々な機器を連動させて、コストの高いピーク電力を使わずに済ませるというものだ。例えば夏の暑い日の午後、電力会社から「1時間後にピークになります」という信号を受けたスマートメーターは、HEMSコントローラにそれを伝える。HEMSコントローラは電力会社の高い電気を使わずに済むように、PLC(電力線通信)経由で、太陽光発電システムにはフル発電するように、蓄電池には太陽光の電力が余るなら蓄電してもよいが家庭内の消費電力が不足するなら放電するように、エアコンには太陽光と蓄電池からまかなえる電力で運転できない場合にはセーブモードで運転するように伝える。このような自動識別操作により、住人は高いピーク電力を使わずに済む。もし、このような機能がなければ、電力会社から通知を受けて、住人が一つひとつの機器の設定をいじって回らなければならず、その差は歴然だ。

HEMSによるエネルギー管理のイメージ例。
[図表2] HEMSによるエネルギー管理のイメージ例。消費者のニーズに応じて、複数の家電製品を束ねて最適なエネルギー管理を実施することが可能になる。(出所:経済産業省スマートハウス標準化検討会資料)

その他、太陽光発電の売電契約を結んでいる場合は、売電を優先するか家庭内での消費・蓄電を優先するかの指示を出す。また、太陽光発電や蓄電池がない世帯では、時間帯別の電力価格を見ながら節電を優先するか、室温の快適性を優先するか等、ある条件下で何を優先させるかを指示することができるようになる。仮に大多数の世帯にこうした機能が実装されれば、その節電効果たるや莫大なものになるだろう。
標準が固まったおかげで、日本は高度なHEMSへの一歩を踏み出したと言うことができる。なお、海外のHEMS標準であるKNXZigBeeと比較すると、ECHONET Liteでは洗濯乾燥機、電気式床暖房、照明、食器洗機など、カバーされている家電製品のジャンルが多く、より日本の家電メーカーの力が発揮しやすい内容になっている。スマートフォンで高度なHEMSの指示を出すことができる日も、さほど遠い話ではない。
ただ、こうしたHEMSが意味を持つための大前提がある。米国でTOU(Time Of Use)と呼ぶ時間帯別の電力価格制度(ダイナミックプライシング)を日本の電力会社が導入して初めて、HEMSの本領が発揮できるのだ。今のところ、一般世帯向けでは深夜電力料金の設定があるだけで、夏期のピーク時に電力料金が高くなる本格的なTOUは日本には存在しない。HEMSが普及するかどうかは、電力会社の料金制度次第というところがある。

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