LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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スマートメーターは採算に合うか?

日本のスマートメーターに関しては、標準化とは別な部分の話として、投下した設置コストに見合う経済的な便益は得られるのかという議論もある。
一般的な電力会社では、スマートメーターを設置することで不要になる電力量計検針員の労務費削減だけではスマートメーター設置費用を賄えない。さらに、スマートメーターを動かすことにより、電力料金請求のためのハガキ送付の費用(印刷+郵送)が上乗せされる。現在は検針員が検針の度に、電力使用量と請求額を記したシートを各戸に配布しているが、このシートに相当するものを郵送する必要が出てくるからだ。多くの場合、スマートメーターを設置したとしても、検針員による人力の電力使用量チェックを続けた方が採算は合うという。
従って、スマートメーターをできるだけ早期に各家庭にも普及させたいとする経産省の意向に対して、電力会社の意向はスマートメーターは電力事業のコスト高を招くので、10年単位の時間をかけてやりたい(電力量計は10年に一度の交換が義務)というものなので、両社は静かにせめぎ合っていると言える。

Aルートは一つの方式に決められない

上述したように、Aルートは「通信技術を使って電力会社へ家庭の電力消費状況を伝送する」部分に関するものであり、通信方式に何を使うかが焦点となる。
Aルートは一般的に、数百から数千のスマートメーターから出てくるデータを1つの「コンセントレーター」(集信装置)がまとめ、コンセントレーターがブロードバンド経由で電力会社の料金計算システムにデータを送るという形になる。
通信方式は大きくPLCと無線とに分かれ、無線の主なサブカテゴリとして無線LANに似た通信方式(IEEE802.15.4系*4)と携帯電話会社のサービス(2G、3G、PHSなど)がある。また、通信のトポロジー(つながり方)で言えば、一つのコンセントレーターにすべてのスマートメーターがダイレクトにぶら下がる「スター型」と、個々のスマートメーターが伝言ゲーム式に取りつないで(ホップして)コンセントレーターにデータを送る「メッシュ型」とに分かれる。さらに、経済効率の観点からは、一つのコンセントレーターが取り扱うことのできるスマートメーターの数が多ければ多いほどよい。

メッシュ型ネットワークのイメージ
[図表5] メッシュ型ネットワークのイメージ。図中ではSUN(Smart Utility Network)の中で伝言ゲーム式に取りつないでデータが送られている。(出所:NIST資料)

米国でのメッシュ型ネットワークの構築に際して興味深い現象が起こっている。都市郊外の住宅と住宅の距離が離れているため、ネットワークを構成する際に「経済的な密度」が得られず、コンセントレーターをたくさん置く必要があり、通信インフラ構築コストが肥大しているのだ。
これが日本の都市部であれば、住宅が密集しているため、メッシュ型ネットワークで一つのコンセントレーターが取り扱うことのできるスマートメーターは容量ぎりぎりまで増やせる。一方、山間部ではそうはいかない。
このことから、Aルートのネットワークインフラの通信方式は一概に何がいいかと言うことはできず、地域ごとに部分最適な方式を選択せざるを得ないという現実があることがわかる。
一方、大量のスマートメーターを調達する必要がある電力会社にとっては、管内で複数の通信方式を使う際にはスマートメーター内に実装する通信モジュールを複数種類用意しなければならず、結果としてスマートメーターの単価が高くなるのが悩ましいところだ。この部分は標準化と言うよりも、日本の電力会社のニーズに合った「パッケージ」をどのITベンダーが提供できるかということになっていくだろう。ビジネスとしては巨大な領域であり、ここからも目が離せない。

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