No.002 人と技術はどうつながるのか?
Scientist Interview

画面に閉じたコンピューティングを
実世界に出す方法を探る

──再び、展示されている苗村研の研究事例について伺います。目に見える光や映像に情報を埋め込んでやり取りする「可視光通信」には長年、取り組まれていますね。

展示したプロトタイプでは、プロジェクターの映像1ピクセルごとが人間が知覚できない速さで点滅して情報を送っています。それを小型のデバイスが読み取り、位置ごとに違った情報を表示する仕掛けです。

可視光通信プロジェクター
[写真] 可視光通信プロジェクター:プロジェクターの映像にデバイスをかざすと反応し、地図の該当地域の天気を表示する。

映像を見ているのかなと思ったら、実はそこに情報が来ていて、ちょっと何かかざすだけで、別の情報が見えるようになる。現実世界にプロジェクターという手段を使って、情報をバラまいているんですね。ただ、情報をドバッと出すのではなく、位置や向きというものをちゃんと考えましょうという研究です。

このあたりの研究から、画面の中だけで情報を見るよりは、空間そのものに情報が展開されている状況がつくれるようになった実感があります。

──こうした情報環境としてのインターフェースが空間に溶けて見えなくなる流れがあって、もう一方では、非常にアナログな素材をインターフェースとして扱ってきたのも研究室の特徴ですね。

コンピューターの情報ディスプレイというのは光るものが当然とされてきましたが、特に小さい子にとって自然なものは、結局は紙なんです。それがコンピューターのインターフェースに組み込まれていくのか、コンピューターとは別物になっていくのかは、物理と情報の境界を探るという私のテーマと結び付いています。

普通、紙とコンピューティングというと、ペンのほうにデジタル的な仕掛けがあって、書いた文字がコンピューターに読み込まれるというものです。もしくは、紙に書かれた文書をOCR*7で取り込むくらいがせいぜい。今、この瞬間に書いたものがコンピューターにいじられるという感覚はあまりないんですね。そこはアナログの世界だ、と完全に線引きがなされている。

でも、紙に手で書くという行為自体が、もっとデジタルによって支配されるようなことができないかなと思うんです。研究中のテーマは、手で書いたものがコンピューター制御によって消されちゃったり、また現れたりするものです。

AR-Eraser
[写真] AR-Eraser

この「AR-Eraser」は、紙面にボールペンで書いた文字を認識して、消去できるインターフェース。紙の上からコンピューター側に情報を、ではなく、コンピューター側から紙の上の情報を操作するというアプローチです。

紙でなければダメかというと、別にモニターで十分という考えもできるのでしょうが、より質感であるとか、直感的な感覚というのを引き出すために「普通の紙と普通のペンなのに」という領域に踏み込むのは、やはり境界を広げるための試みなんです。

──境界をなくすのではなく、広げるのですか?

ええ、コンピューターの制御下に入る部分というのでしょうか。それは悪い意味ではなく、アナログのことを自然にやっているつもりで、ちゃんとコンピューターが見守ってくれているというような環境を広げたいのです。さらに今度は、人間の存在をクローズアップするようになりました。

紙つながりだと、「手で書く」行為そのものが、より楽しく、継続できる、集中できるものをデジタル技術でつくれないか、というのが「筆記音のフィードバック」を実験した研究です。本当に簡単なインターフェースで、紙と鉛筆と耳の間に1つ、マイク+スピーカーのデジタル技術を入れるだけです。

映画のワンシーンで、がむしゃらに勉強していることを描くために、ペンが走る音を聞かせる常套手段がありますよね。漢字の書き取りみたいなものは、自分が書いた音が強くフィードバックされたほうが、より継続的に集中して取り組めることが、統計的に明らかに出せそうな段階にあります。

筆記音のフィードバックに関する研究
[写真] 筆記音のフィードバックに関する研究

文字でなく、絵を描くときの筆記音をステレオで聞かせる実験もしています。この場合は、空間性の把握につながるという仮説のもとにやっています。これらのメディア技術のおかげで集中力やポテンシャルが高まるという実験は、僕らが「技術のおかげで幸せになれる」という最終的な目標の入口にあるような研究なんです。

──インターフェースに五感を利用するのには、非常に実用性を感じます。

ある意味、斬新なことではないんです。インターフェースの未来を描くときに大切なのは、突拍子のないことを次々にやるのではなくて、慣れ親しんで気持ち良かったものがクローズアップされるということだと思うのです。

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