No.002 人と技術はどうつながるのか?
Scientist Interview

体験をもたらす手段として
技術の未来を見すえる

──これまで挙げていただいたものすべてを「インターフェースの研究」と呼んでしまっても構わないでしょうか。

不都合はないですね。結局、インターフェースもしくはメディアという言葉は、情報技術と人間を媒介して、役に立つことをするもの、という意味ですから。

人にとってどうか、人がどう感じるのか、というところに最後はたどり着きますね。研究室では、人間の経験だとか、心の豊かさといったものに働きかけるものを目指しています。そのために今は画像を使うことが多いのですが、あくまでも体験をもたらすための手段にすぎない、という位置付けです。

結果として出てくる手段というのが非常に多岐にわたりますね。でも、やってみて楽しいとか、分かりやすいとか、「技術の未来は明るい」と思ってもらいたいということは、統一したテーマとしてやっているつもりです。

Inter-Personal Browsing(グループワーク支援システム)
[写真] Inter-Personal Browsing(グループワーク支援システム)

まず、画面の中に閉じているコンピューティングを、どうやったら実世界に出せるのかという研究のフェーズがありました。次のフェーズは、実世界にあふれ出てきたものに対して「それにどんな意味があるの?」と考えた答えが、思わずやる気が出るもの、会話が弾むものだったと思うんですよ。

いわゆるGUIとかではないんですね。インタラクションデザインに近いのかもしれませんが、「こういうふうにしたら、次にこの人はこう返す」という"対話の組み合わせ"をうまく誘発したい、という目標があります。

──先生のお子さんはおいくつですか?

7歳です。専門家がいいと言っても、やはり子どもたちは正直。専門ではないから、当たり前のことでも驚くということも含めてです。やはり、子どもがスゴいと直感的に分かってくれるものをつくりたいというのは、将来の夢としてはあります。

教育に関しては、褒めて伸ばすということと、批判的な視点を持つということを、両方をやらなければいけません。褒められるとみんな頑張るわけですが、一方ですべてに対して批判的な視点を持ち合わせていないと「いいね!」と言って終わってしまうわけです。

どんどん新たな技術が世に出てきたときに、「これを使えたらすごいな」と思う半面、「あえて批判するなら」という目で見てみることは大切です。ものすごくハイテクで苦労して頑張っているけれど、「根本的にこうすれば簡単じゃないの?」「それって実は要らないよね?」と言えるか。それは、子どものように頭を柔らかくするトレーニングとして実践しています。

[ 脚注 ]

*1
筧康明氏: 慶應義塾大学SFC環境情報学部准教授。現在も苗村研のサポートメンバーを勤めている。
http://www.xlab.sfc.keio.ac.jp/?page_id=15#p2
*2
Tablescape Plus:2008年のアルスエレクトロニカ展にも出展。
http://www.ntticc.or.jp/Archive/2007/Openspace2007/research_develop/tablescapeplus_j.html
*3
SF作家、アーサー・C・クラークの言葉。
*4
故大越孝敬氏:通信工学者。東大先端科学技術研究センター初代センター長。
*5
原島博氏:情報工学者。東大名誉教授。ヒューマンコミュニケーション工学を標榜し、95年に「日本顔学会」を設立した。http://harashima-lab.jp/
*6
Lytro
http://www.lytro.com/
*7
OCR:光学式文字認識。スキャナーなどで読み取った文字の画像を、コンピュータが読み取れる文字列に変換するソフトウェアおよび装置。
*8
武井祥平氏:苗村研究室学術支援専門職員
http://nae-lab.org/~takei/
*9
丹青社:1954年創業。乃村工藝社と並んで、空間デザインのプロフェッショナルを擁する大手企業。

Profile

苗村 健 (なえむら たけし)

東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 准教授。同 学際情報学府 先端表現情報学コース、工学部電子情報工学科メディアコンテンツラボ 兼担。日本バーチャルリアリティ学会アート&エンタテインメント研究委員会前委員長、電子情報通信学会マルチメディア・仮想環境基礎研究専門委員会前委員長。
1997年東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。2000年〜2002年米国スタンフォード大学客員助教授(日本学術振興会海外特別研究員)。2002年より現職。アート&エンタテインメント、メディア+コンテンツ、実世界指向インタフェース、ユビキタス情報環境などを研究。
http://nae-lab.org
http://twitter.com/naemura
http://www.youtube.com/user/NaemuraLab

Writer

神吉弘邦

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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