No.013 特集 : 難病の克服を目指す
Cross Talk

共同研究で技術を得る

松崎 ── つい先日のニュースですが、米国のグループが人間のiPS細胞を豚の受精卵に入れ、人間の細胞を一部持っている豚の胎児を作ることに成功しました。

栗城 ── 豚の体を借りて、人間の臓器を作るということですか?

松崎 ── そうです。豚の膵臓や肝臓は人間のものに大きさや重さが近いので、豚に人間の細胞を持たせ、それを移植に使おうという発想です。なんでこんなことをやらないといけないかというと、やはりまだ臓器を人工的に作れないからなんですね。

でも、先ほども言ったように動物と人は根本的に違うので、最終的にはいろいろ問題が出てくるかもしれません。だから、人間の手で人間の組織に近いものを作っていこう、というのが私たちの仕事です。

ただし、全部これを手でやるのは大変なことです。人間はミスもしますし、機械的に生産しないと多くは作れません。そこで、細胞をインクジェットプリントで作ろうとしています。

栗城 ── インクジェットなんだ!

松崎 ── そうです、プリンターで細胞をプリントしてしまおうということなんですよ。3Dプリンターが流行るずっと前から、私たちはこの研究をしていました。インクジェットを使うと、細胞を1個ずつ正確にバーっと打ち出していくようなことができます。人間の手ではなかなか難しい、複雑な形を作れるんです。

インクジェットプリントにより作られた格子状の血管構造。(松崎氏提供)

これは血管の構造をプリントして格子状にしているのですが、20日間ずっと培養しても、崩れないようになってきました。しかし、これはまだ2次元の平面なので、次はいかにして立体にするかが課題です。

このような研究には印刷のテクノロジーも必要なので、プリンターを取り扱っている企業と一緒に共同研究をしています。彼らと一緒に細胞をプリントする装置を作ったり、タンパクをコーティングする装置を作ってもらったりしています。

── 細胞の3次元組織を構築する研究では、どこかに既存のアプローチと異なるブレイクスルーがあったのでしょうか。

松崎 ── 人体の仕組みを学び直したことがあるでしょうか。例えば、臨床で患者さんから細胞をいただいて増やすことはお医者さんも普通にするのですが、その時に使っているのはプラスチックの皿です。昔はガラス皿を使っていたのですが、プラスチックの方が割れなくて扱いやすいし、生産性も高いために広く普及したのです。

でも、私たちの身体の中に、プラスチックはないですよね。細胞はプラスチックの上で培養されている時、ストレスを感じていることがわかったんです。細胞にとっては良くない環境だったんですね。

身体の中の環境は、細胞の周りにタンパク質があり、3次元の構造をしています。それを、同じように再現したところ、細胞の機能が顕著に発現することが判明しました。

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