No.009 特集:日本の宇宙開発
連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕
Series Report

自動運転車はIoTシステムの要素

自動運転車の開発を進めているのは、自動車メーカーだけではない。Google社やApple社といったIT業界の名だたる企業も開発を進めている。特に目立った動きをしているのが、Google社である(図3)。同社は、2015年に米国カリフォルニア州北部で公道での実証実験を始め、早ければ2017年に実用化したいとしている。

Google社は、社会の中でのクルマの動きを把握し、これを最適制御して、社会活動の効率化を実現することを目指している。自動運転車を「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」が具体化した一つのかたちとして捉えているのだ。自動運転車の走行状況や、衛星で把握した移動物の動きなどをデータとして蓄積し、エネルギー消費が少なく、しかも最短の時間で移動できる都市管理システムを構築しようとしている。

Google社の自動運転の実験車両「Google Car」の図
[図3] Google社の自動運転の実験車両「Google Car」
出典:Google社のプレスリリース

自動運転車を使った、新しい公共交通機関のサービス提供を目指す企業も登場している。スマートフォンを通じたタクシーなどの配車サービスを展開しているUber社は、自動運転車を使った無人タクシーを実現するための技術開発を進めている。東京のように公共の交通機関が発達している都市では、その必要性を感じないかもしれない。しかし、無人タクシーサービスを実現することによって、交通機関が充実していない市町村や、世界中の多くの都市では、移動が格段に便利になると考えられている。日本でも、ロボット専業のベンチャー企業であるZMPが、ディー・エヌ・エー(DeNA)と共同で、ロボットタクシーの開発に着手している。2020年の実現を目指して、2014年7月から名古屋市で公道での実証実験を開始している。

なぜ今、自動運転なのか

自動運転車は、SF小説やマンガの中の世界では、よく登場するおなじみの存在だ。しかし、自動車が大衆化してから約100年。クルマの運転を自動化する動きは、それほど進んでいなかった。それが、なぜ今になって突然、自動運転を求める機運が生まれ、技術開発が活発化したのだろうか。

人々が移動するため、そして物資を輸送するため、クルマは現代社会において無くてはならない存在になっている。しかし、交通事故、少子高齢化、社会活動の非効率化といった、現代そして将来の社会が抱える問題を解決するため、クルマのあり方を再定義する必要が出てきた。こうした時代の要請に応えるための解が、自動運転の実現なのである。技術的に、センサやマイクロエレクトロニクス、アクチュエータ、ソフトウエアアルゴリズムなどの技術が進み、自動運転を実現できるようになったことも大きな要因である。自動運転車がどのような社会問題の解決に寄与するのか、少し詳細に見てみよう。

事故のほとんどは人が原因で起きる

まず、交通事故に関する問題。交通事故による死亡者数、特に歩行者が被害者となる事故が減らなくなっている。シートベルトの着用義務の徹底やエアバッグの普及などによって、ドライバーの死亡事故は減った。しかし、歩行者が巻き込まれる事故を防ぐのには効果がなかった。2009年11月、モスクワで開催された交通安全に関する世界閣僚国際会議において、2010年から2020年の10年間で、交通事故による死者を半減するという目標が採決された。

クルマの事故の93%は、ヒューマンエラーで起きる。人間が判断する作業を少なくすることが、事故を減らすための特効薬なのだ。このことは、クルマよりも早く操縦の自動化が進んだ航空機の例を見ても分かる。離陸100万回当たりの全損事故件数は、1950年代には40便以上あったという。これが、自動操縦技術が熟成したことで、現在では1件以下まで減少している。

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