No.009 特集:日本の宇宙開発
CROSS × TALK 探究心を乗せて、地球から星空へ ダイジェストムービー

今春、月をはじめ重力天体での持続的な活動に向け、新たな産業が参加できる拠点「宇宙探査イノベーションハブ」の発足を発表したJAXA。人類の生存圏・活動領域を拡大させるための革新的な宇宙探査技術の実現に向けて、企業とのマッチングを計るべく活動を開始している。リーダーは「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーを務めた國中 均氏だ。一方、北海道大樹町を拠点に、超小型衛星打ち上げ用の小型液体燃料ロケットを開発している日本の宇宙ベンチャーがインターステラテクノロジズ株式会社の「なつのロケット団」プロジェクトである。チーフエンジニアの牧野一憲氏と國中氏が、宇宙開発にかける夢を語り合った。

(構成・文/神吉 弘邦 写真/ネイチャー&サイエンス)

ようやく日本の宇宙ベンチャーがロケットを作っている、と言えた

牧野 ── つい先日(2015年9月9日)、僕たちは姿勢制御の実験機を飛ばして、無事に成功しました。その映像をぜひ見ていただきたいと思って、このタブレットに入れてお持ちしたんです。

 

國中 ── ここまで来るのに、どれくらいの期間がかかりましたか。

牧野 ── 2005年のプロジェクト立ち上げから10年でたどり着きました。法人化してからは1年半ですね。これまで僕らは、いわばオモチャみたいなロケットを作っていたわけですが、今回初めて3軸の姿勢制御を行って、打ち上げの実験を行いました。

実はこの前に一度飛んでいるのですが、いろいろ制御などの問題でその時は横っ飛びをしまして。今回は綺麗に真っ直ぐ上がってくれて、姿勢誤差も0.5度ぐらいで高度170mぐらいまで無事上昇したんです。これは燃焼時間が13.5秒ぐらい。その後、カットオフして頂点でパラシュートを開いて、ただ落ちてきます。

國中 ── 一番上で開くんですね。

牧野 ── ええ。JAXAの実験機のように動力着陸*1するわけではないです(笑)。パラシュートで落ちてきて終わらせるのですが、うちはフレームを壊してもすぐ作り直せるからいいや、という実験です。落ちた後にフレームはつぶれるのですが、中のタンクやバルブ・エンジンが使い回せればいいと、とても割り切ったことをやっています。

今までは大学生がやっているロケットの液体燃料版ぐらいで、モデルロケットにちょっとプラスアルファしたものだったのですが、やっと「ロケットを作っています」と言えるようになりましたね。全部オンボード*2で演算までやって姿勢制御しているのですが、非常に安くできています。

國中 ── なるほど。エンジンは何でしょう。

牧野 ── エチルアルコールと液体酸素のエンジンで、推力は1,500ニュートンです。この実験の日には風が2.4mぐらいありましたが、機体重量が130kgを超えているので、0.2G*3ぐらいでゆっくり上がっています。

國中 ── このサイドジェットは?

牧野 ── コールドガスジェットでN2(窒素ガス)を吹いています。それでロール方向(前後の軸に対して回転する向き)を制御しているんです。今回の実験はこの先に我々がやろうとしている実際に仕事をするロケット、荷物を運ぶためのロケットを開発するための基礎実験という位置付けです。それが今回うまくいった段階です。

これからの宇宙研究開発は、事業性を確保する必要もある

國中 ── 非常に面白い映像でした。牧野さんたちのプロジェクトに事業性があるのかという点には、大いに興味があります。

牧野 ── ご存じの通り、これまでのロケットはペイロード(ロケットを推進させる以外の積載物)のキログラムあたりのコストをいかに下げるかという点で次々と開発が進んできました。すると、やはり打ち上げのプロジェクト自体が大きくなる。たくさんのペイロードの代わりに、1回の打ち上げが安くても30〜40億円という金額になっています。

僕たちはその金額を一桁下げようと考えたんですね。3億円で衛星軌道に到達して、最低限の仕事ができるペイロードです。具体的に言えば50kg程度のものを放り込もうというのが最初の到達点です。

國中 ── そこまでどうやって資本を求め、それを回して、拡大生産に繋げていく計画なのでしょうか。

牧野 ── まず、サブオービタル(準軌道)へのフライトで最低限の仕事を作ろうとしています。1段式ロケットで120~130kmまで上がり、数分間無重力空間に滞在し、落ちてくるものを考えています。基本的に回収はしません。

この10年位の間、国内外でいくつもの会社から、数kg〜数10kg級の衛星を使った事業がいっぺんに立ち上がり、非常に大きな投資を集めています。僕たちのプロジェクトも最初のサブオービタルへのフライト事業で上がった売上を利益として、株主に還元するところまでになかなかいかないのですが、次の開発資金に注ぎ込みます。

その後に目指すのが50kgの質量を低軌道*4に上げるロケットです。そこがまず、事業化の第1弾ですね。おそらく大きな探査機1機分に満たないぐらいの市場規模全体で1,000億とか2,000億までいかない金額です。額は小さいかもしれませんが、ちゃんと回っていくビジネスモデルを作ろうと考えています。それだけのお金が回れば、衛星軌道*5に届くロケットの開発は可能でしょうから。

國中 ── なかなか難しいだろうと思いますが、民間の会社にもぜひ頑張っていただきたいです。打ち上げ1つとっても、日本のロケットなどは民間でも国のプロジェクトという要素を持っているので、ナショナルセキュリティや近隣国に対する安全担保など、調整が難しい側面がたくさんあります。

牧野 ── これから国会で提出される宇宙活動法では、おそらく「これだけの資本規模がないとダメです」という話になってくると思います。保証能力がなければ打ち上げてはいけません、という縛りは掛かるかもしれませんね。現場スタッフは、技術開発と安全、この2つに注力してコツコツ進めているところです。

國中 ── JAXAがやってきたのは、国の技術研究開発という要素が強いものでした。国の予算を使って、安全性や確実性を高くする。成功率50%でいいというロケットは、ロケットとして認められませんから、当然ですよね。これまでは事業性をあまり考えずに成功率を上げるところに努力してきたわけです。

これからは私たちのプロジェクトでも事業性を確保しながら、研究開発と両立させることが求められていると考えています。

[ 脚注 ]

*1
動力着陸: 機体の動力を使って着陸を補助する方法。←→滑空着陸、無動力着陸。
*2
オンボード: センサーやコンピュータなどシステム一式をロケットに搭載し、遠隔操縦することなく、機体上で制御を完結させる方式。
*3
0.2G: 機体が上昇する際の加速度が地表での重力加速度の0.2倍程度だということを表す。(実機では0.1~0.2倍程度の間で変化)1Gが9.8m/s2なので機体の上昇加速度は0.98m/s2~1.96m/s2程度。
*4
低軌道: 地球表面からの高度160 kmから2000 km辺りを指す衛星軌道。=LEO(Low Earth Orbit)。国際宇宙ステーション(ISS)は、地上から約400km上空の低軌道上を周回している。
*5
衛星軌道: 低軌道のほか、高度2000kmから地球同期軌道(35,786km)までの中軌道(MEO)、地球同期軌道より外の高軌道(HEO)がある。衛星測位システム(GPS)を含めた衛星電話や通信システムの多くが利用するのは中軌道。

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