No.009 特集:日本の宇宙開発
CROSS × TALK 探究心を乗せて、地球から星空へ ダイジェストムービー

今春、月をはじめ重力天体での持続的な活動に向け、新たな産業が参加できる拠点「宇宙探査イノベーションハブ」の発足を発表したJAXA。人類の生存圏・活動領域を拡大させるための革新的な宇宙探査技術の実現に向けて、企業とのマッチングを計るべく活動を開始している。リーダーは「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーを務めた國中 均氏だ。一方、北海道大樹町を拠点に、超小型衛星打ち上げ用の小型液体燃料ロケットを開発している日本の宇宙ベンチャーがインターステラテクノロジズ株式会社の「なつのロケット団」プロジェクトである。チーフエンジニアの牧野一憲氏と國中氏が、宇宙開発にかける夢を語り合った。

(構成・文/神吉 弘邦 写真/ネイチャー&サイエンス)

2030年代に日本人宇宙飛行士を火星へ送る

── 現在、國中先生が携わっているプロジェクトの最終的なゴールはどこにあり、そこに至るロードマップはどうなっているのでしょう。

國中 ── JAXAの「宇宙探査イノベーションハブ*1」は今年始まったばかりで、今は格闘中です。イノベーションなんてそう簡単に誰もできませんから、10本打って1発当たったら大成功、というつもりでやっています。民間企業の活動をどうやって宇宙に動員して、その成果をどのように地上事業に応用してイノベーションを起こすかというなかなか難しいお題なのですが、「5年後に成功させなさい」という政府の要請に応えられるように努力中です。

ただ、世界の宇宙機関が目指すところはやはり宇宙探査で、2030年代に人を火星に送り込む構想について検討しているところです。そこに日本の技術をどういう風にねじ込んでいくかです。そのプログラムでは、4人乗りの有人探査船を用いて4〜5回の火星フライトが想定されるので、そこに1人の日本人宇宙飛行士を送り込むことを実現したいと思っています。それがおそらく目指すべき当面のゴールで、そこにどういうストーリーでもって進めていくかが課題です。

私は探査イノベーションハブの責任者として、そのスキームの中に日本が得意とする地上の技術をシェイプアップして、どう宇宙に動員させるかを考えています。どれだけプレーヤーを増やすかということですね。今はお馴染みの会社しか宇宙事業をやっていませんが、新しい事業者をそこに動員して、大勢で宇宙事業を盛り立てていく、そんなシナリオ作りをやっています。

牧野 ── 5年間というのは、今まで僕らが見ていた国が進める事業スパンと比べると短いですね。

國中 ── 宇宙技術を短い5年間で完成させるというものではないです。その先、我々の言うところの宇宙プロジェクトを打ち立てる基礎技術を作るための時間です。例えば、2025年に月に着陸するためのプロジェクトを2020年に立ち上げるために、それまでに仕込むべき技術を、地上の技術を組み合わせて2015年から準備しましょう、ということです。

5年間で衛星を打ち上げるという話ではないんですね。民間事業者からすると、「JAXAはまた夢みたいなことを言ってる」と思われているのではと、心配しているのですが。

牧野 ── むしろ、今まで聞いたJAXAのお話の中で、一番現実的だと思います。民間が持っている技術の実験場として宇宙を使う。技術を発展させる上で、僕は非常に大事なことだと思います。

宇宙ベンチャーとJAXAがコラボレーションする時代は来るか

 

國中 ── そう見ていただける会社ばかりではないのは、この数か月で経験しましたね。「宇宙なんてそんな儲からない」「そんな遊びみたいなところに資本を投下するつもりはないし、エンジニアを出して人的資源を割く余裕はない」という感覚の会社は多いです。

牧野 ── 僕は、半分は技術者なので國中さんの感覚は分かります。ただ、半分は経営者としての感覚があるので、どうしても5年後、10年後に市場規模はいくらあるのかという考え方をしてしまいます。

國中 ── ただ、宇宙は面白いと言ってくれて話を聞いてくれる会社もあります。自社の事業にそれがどう役立つのか皆さん考えていらっしゃると思うのです。なかなかいい案件がすぐに見つかるわけではないのですが、何かあるんじゃないかとは思っています。

牧野 ── きっと、あると思います。

國中 ── 私は学生の頃からマイクロ波放電式イオンエンジン*2などを研究していたのですが、周りの人からは「そんなもの作れるはずがない」と言われ続けてきました。その後、「はやぶさ」初号機*3のときも「日本に小惑星サンプルリターンはできるはずがない」と言われました。「そんなことないよ、やって見せるよ!」と思って、ずっと精進努力してきたんですね。だから、これからもそんな調子でやろうかなと思っています。

── これからの宇宙探査で必要になる地上の技術がありましたら、この記事を読んで興味を持った方々のためにも、ぜひ伺いたいです。

國中 ── 例えば、一般的に言うとモーターでしょうね。酸素のない宇宙では、ガソリンエンジンを動力として使えませんから。高効率で高出力のモーターができると、宇宙では速やかに使えます。そういった画期的なデバイスが生まれれば、地上での展開も見込めるのではないでしょうか。

── それなら、小規模な企業とも連携ができそうですね。

國中 ── そうですね、むしろベンチャー系の人の方が話をよく聞いてくれます。大きな会社からは「そんなものは事業性がありません」と一蹴されるのがいつものことなので。

牧野 ── 牧野 うちもベンチャー企業なので、何かあればよろしくお願いします。むしろやらせてくださいという感じですね(笑)。

ベンチャーというのは、世の中に対して影響を及ぼすような新しいことを常にやらないと存在意義がないと思っています。つまり、プロジェクトオリエンテッドなんです。これをやるために会社を作ります、人を集めます、お金を集めます、というシンプルな成り立ち方です。お金が集まったからプロジェクトに割り振るのではなくて、プロジェクトのためにお金や人を集めてくるのがベンチャー企業であり、スタートアップの企業なんですね。

[ 脚注 ]

*1
宇宙探査イノベーションハブ: 2014年6月に閣議決定された国の方針「科学技術イノベーション総合戦略2014」を受け、2015年4月JAXA相模原キャンパス内に設置された。 http://www.ihub-tansa.jaxa.jp
*2
マイクロ波放電式イオンエンジン: プラズマ生成時に直流放電を利用する従来の電気式ロケットでは電極劣化という課題があったが、マイクロ波放電による無電極化で解決した日本独自のシステム。小惑星探査機「はやぶさ」に4台搭載された「μ10」はキセノンを推進材とし、消費電力350 W、推力8mNの性能を持っていた。
*3
はやぶさ(初号機): 2003年5月打ち上げ、2005年9月に小惑星イトカワに到達。途中、通信途絶やエンジンスラスタの停止など相次ぐ困難にも対処し、微粒子を採取したカプセルともに2010年6月帰還。日本の技術力を世界に知らしめた。

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