No.009 特集:日本の宇宙開発
連載02 生活と社会活動を一変させる、センサ革命
Series Report

第3回
高度化するセンサ技術

 

  • 2015.11.02
  • 文/伊藤 元昭

電子機器をより直感的に利用できるものに変える「ユーザーの意図を察するセンサ」、人々の生活や社会活動を一変させる次世代情報システムの重要な構成要素になる「状態や状況を測るセンサ」。これら新しい役割を果たすセンサは、現時点では既存のセンサを基に開発されていることが多い。新しい応用で求められる機能、性能、特性に合わせて、全く新規に開発されたセンサを利用することができれば、用途開拓と普及がさらに加速することは確実だ。連載第3回は、センサの応用をさらに広げる可能性を秘めた、新しいセンサ技術の潮流を、具体的な開発事例を挙げながら紹介する。

センサには、それを開発する者が目指すべき大原則がある。組み込んだシステムの中で存在を感じないほど、「小型」「低消費電力」「メンテナンスが楽」「安価」であることだ。存在感の大きなセンサは、自ずと組み込む先のシステムや利用シーンが限定されてしまう。

「ユーザーの意図を察するセンサ」や「状態や状況を測るセンサ」が、新しいコンセプトの機器やサービス、そして斬新なビジネスモデルまで生み出すようになった。これに伴って、自然現象を検知するセンサデバイスだけではなく、情報を「変換・処理」「認識・分析」「解釈」する電子回路や外部機器へと送信する通信機能も含めたシステム全体で、存在感を感じさせなくする工夫が求められるようになった。

同時に、検知できる情報の種類を増やすことも、応用拡大につながる。過去のセンサは、温度や加速度、圧力など基本的な物理量を正確に測ることを目指して進化してきた。近年、人間の五感、「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」で感じたことを数値化し、分析や制御に利用できるようになってきた。そして今、人間の五感を超える能力を持った超五感センサ、また化学的現象や生物学・医学的現象を数値化できるセンサの開発が進んできた。

MEMSはセンサ革命の立役者

まずは、目立たないセンサを作る技術を紹介していく。1990年代以降、センサの応用拡大に最も大きな貢献を果たしてきた技術がMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)である。スマートフォンのマイクやデジカメの手ぶれ補正に使うジャイロ(回転を検出)・加速度(直線方向を検出)センサーなどでお馴染みの技術である。このMEMS、目立たないセンサを作るために欠かせない技術にもなっている。

MEMSとは、ミクロンまたはナノスケールの微小な機械部品を作る技術および製品である。デジカメの手ブレ補正などに使われる加速度センサやプロジェクタで映像を制御するミラーデバイス、携帯電話の高周波スイッチなど、さまざまな電子部品に使われている。この記事では、これらのうち微小な振り子やレバーなど機械部品を作り、それを組み合わせた機械の動きを電気容量や抵抗などの変化として検知して、センサとして利用するものについて取り上げる。

これまで多くの電子機器に使われていた歪みセンサや温度センサなどは、情報を検知する原理から見れば、物性型センサに分類できる。膨張率、透磁率、抵抗率といった物質の特性や、圧電効果、光電効果といった特定の物質で起きる現象を利用して、自然現象を電気信号に変換する。これに対しMEMSセンサは、構造型センサと呼ぶ別のタイプに分類される。センサを構成する材料の特性ではなく、大きさや形状、構造が、センサの機能や性能を決める。一般に、構造型センサには、高感度で安定した特性を実現しやすい特徴がある。

MEMSは、半導体デバイスの製造技術として究極の進化を続けてきた微細加工技術を応用して作る。半導体デバイスと同様に、小型化と一括生産による低コスト化が可能である。さらに、MEMSと半導体デバイスは同じシリコンウエハー上に作られるので、両者を集積して、センサと電子回路を1チップに集積することもできる。

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