No.009 特集:日本の宇宙開発
連載03 実用期を迎えるフレキシブルエレクトロニクス
Series Report

第3回
フレキシブルセンサ、新型インク、
衣服エレクトロニクスへ進む

 

  • 2015.11.20
  • 文/津田 建二

ウェアラブル端末や、身につけるデバイスが社会に浸透するに連れ、フレキシブルエレクトロニクスは製品化が進んできた。今後、フレキシブルエレクトロニクスの開発はどのような方向を目指すか。第3回では、9月末に東京で開催されたIDTechEx Insight Forumから、フレキシブルなセンサや新たな配線技術などを紹介する。

米国も本腰を入れる

これまで試作品止まりの事例が多かったフレキシブルエレクトロニクス製品だが、ようやく実用的な取り組みに変わってきた。また、これら実用的なフレキシブル製品の配線やセンサ部分には、印刷技術で形成するプリンテッドエレクトロニクスを用い、信号処理回路はシリコンを使用する「ハイブリッド」手法が明確になってきた。シリコンは、半導体の主要なマテリアルとして知られているが、薄く削ることで柔軟性が高まる。例えば、パワー半導体用の300mmウェーハを薄く削ると、ポテトチップのように曲がってしまうくらいだ(図1)。

Infineon Technologyのパワー半導体ウェーハの図
[図1] シリコンの300mmウェーハを薄くするとポテトチップのように曲がる Infineon Technologyのパワー半導体ウェーハを撮影

米国では国防総省(DOD)が7500万ドルの予算を付けて、フレキシブルハイブリッドエレクトロニクスの開発センターMII(Manufacturing Innovation Institute)をサンノゼに設立すると発表した。実際に運営するのは、フレキシブルエレクトロニクス産業団体のFlex Tech Allianceだ。連邦政府の今回の出資に加え、サンノゼ市や企業、大学、いくつかの州政府、NPO団体などからも9600万ドルを集める予定で、半導体メーカーや製造装置・材料メーカー、バッテリメーカー、ファウンドリ、EMSなど実にさまざまな産業から成り立つエコシステムが形成されつつある。

このような、米国での活発なフレキシブルエレクトロニクスのコンソシアムや投資とは対照的に、日本国内では、山形大学有機エレクトロニクスイノベーションセンターや、大阪大学のプリンテッドエレクトロニクス研究会、産業技術総合研究所のフレキシブルエレクトロニクス研究センターなど、大学や研究所を中心とした集まりに留まっているのが現状だ。実用化を指向していても、デバイスや材料、応用機器、製造装置など産業界のエコシステムを構成するフレームワークは整備されていない。

センサ、配線に注力

今年の9月末、フレキシブルエレクトロニクスの可能性を展望するIDTechEx Insight Forumが東京で開催された。フォーラムの講演の中では、今後のフレキシブルなデバイスにおいて、センサや配線を印刷技術によってどのように形成するか?が鍵であることが示唆された。ここでは、そのセンサや配線、衣服への展開・応用についてふれてみよう。

バイオ、ピエゾ、ガス、オプトにも

印刷で形成できるセンサには、バイオセンサや容量センサ、ピエゾ抵抗(圧力)センサ、温度センサ、湿度センサ、ガスセンサ、オプトエレクトロニクスセンサなどがある。フレキシブルエレクトロニクスの市場調査やコンサルティングを手掛けるIDTechExによると、2015年から2025年にかけて最も大きく成長するセンサは湿度センサで、年平均(CAGR)75%にも達する(図2)。その次が温度センサの66%、3番目がフォトディテクター(光センサ)の57%となっている。

今後成長率の高いフレキシブルなプリント技術によるセンサの図
[図2] 今後成長率の高いフレキシブルなプリント技術によるセンサ
出典:IDTechEx

そのほかにもバイオセンサとして、プリント技術で作る血糖値センサが2025年には80億ドルを超える市場規模になるとIDTechEx社は見ている。その形態はバンドエイドをさらに細く加工したようなリボン状のもので、しかも使い捨てタイプだ。それをリーダーで読み取り、インターネットを通して医師に届けるか、あるいは自分のスマホにデータを格納する仕組みだ。

また、静電容量の変化を利用した圧力センサの開発も進んでいる。この圧力センサには柔らかいプラスチックやゴムなどのフレキシブル材料を使用する。スーパーマーケットの商品棚にこのセンサを置いておけば、客が商品を取り出すとすぐに店頭在庫の状況を検出できる。2枚の電極で柔らかい絶縁材料を挟み、上から圧力がかかれば容量が増加する仕組みだ。

国内では藤倉ゴム工業が、ゴムを電極ではさんだ構造の静電容量センサを開発した(図3)。ゴムを引っ張ると表裏の電極面積が拡大すると同時に容量が増加する。ゴムを伸ばさない時を1とすると、100%(2倍)伸ばすと静電容量は2倍に、200%伸ばすと3倍になり、容量の変化が非常に大きい。センサの形状は幅5mm×長さ100mm、電極部分の長さは60mm。ロボットの腕の曲がりを検出するような利用シーンが想定されている。

藤倉ゴムの変化が大きい容量センサの図
[図3] 藤倉ゴムの変化が大きい容量センサ

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