No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Scientist Interview

経営とは、企業間の「インターフェイス」をデザインすること

──日本企業が、海外企業とうまくパートナーシップを築けないのはどうしてでしょう?

オープンネットワークをうまく築いている企業は、ここまでは外部にも全部教える、ここから先は自社内に留める、というようにインターフェイスを明確に定めています。日本企業の場合、自社やグループ内で全部作ろうとしてしまうため、外部とのインターフェイスがないのです。

こうなってしまう1つの原因は、日本企業の多くに見られる事業部制にあると考えられます。半導体のような部品も、完成品もそれぞれ事業部になっており、どちらにも利益責任があります。先のインテルの例でいえば、マザーボードの規格を作っている部署は儲からないわけですが、CPUが売れることで全社的には利益が出せます。事業部単位で利益を出すことを求められると、全社的な戦略を立てることが難しくなるのです。

同じ問題が国プロ、つまり国家プロジェクトについてもいえます。

──国プロの問題点とはなんでしょうか?

官庁が主導する国プロでは、どうしても「オールジャパン」が最後の出口になってしまいます。例えば半導体なら、製造装置も、部品も、完成品のデバイスも全部日本企業が作るということです。このやり方は、確かに80年代まではうまくいっていました。

しかし、世界で進行しているオープンイノベーションでは、すべてを同じ国の企業が担当するとは限りません。デバイスの製造は韓国や台湾、あるいはベトナムやインドなど、まだ技術が未熟な国に任せた方がよい可能性もあります。にもかかわらず、現在の国プロにはこうした国際的なオープンイノベーションに対応したスキームがまったく存在しないのです。米国でも20年前にこれが問題になり、シンプルなルールでこれを解決しました。それは、米国内で雇用を作り出す企業は、海外企業であっても同じように扱うというものです。

日本の場合は、技術を開発する企業と、利益を受け取る企業のリンクが非常に固定的です。国の予算を使って開発を行うのだから利益を受け取るのも国内企業というやり方は、日本がキャッチアップする側だったときには有効でしたが、キャッチアップされる側になった今の日本ではそれほど有効ではありません。

国プロの予算を使って、A社がある技術を開発したとしましょう。けれど、A社自身がその技術を使って上手にビジネスできるかどうかはわかりません。海外のX社やY社に技術をライセンスしたり、部品供与を行ったりした方が儲かる可能性もあります。日本企業がビジネスを手がけると、人件費などの関係でどうしても高コストになってしまいますから。

現在注目されている産業分野に、パワー半導体(電力の制御や供給を行うために使われる半導体)やスマートシティがあります。これらを誰が使うのかといえば、エネルギー消費が拡大する新興国の人々でしょう。それなのに、今はすべてを日本企業が手がけており、スマートシティのインフラについても日本で作ったものを輸出しようということになっています。日本には適したシステムでも、それがインドで使いやすいかどうかはまったくわかりません。

国際的なイノベーションを進める時に求められるのは、個々の技術をまとめ上げて全体のアーキテクチャーを作っていく能力なのです。アーキテクチャーを作る能力の方が、個別の技術をつくる能力よりも重要です。こういうときには、「オールジャパン」よりも「ジャパン・イニシアティブ」くらいがいいと思います。「オールジャパン」で、果たして海外の市場で受け入れられるシステムが作れるのか、疑問です。それよりも、海外の人も参加してもらえる国際的なイノベーションの場を作り、そこで、日本企業がイニシアティブを発揮できる機会を支援する方が重要だと思います。

──製造業などでは、海外進出を進めている日本企業も増えてきています。

日本企業の場合、子会社を海外に作って生産を行うケースが多いのです。子会社の場所が日本国内から海外に移動しただけで、結局は日本企業内での取引だったりします。こういう場合は、コミュニケーションも従来通りですから、インターフェイスを作ろうということにはならないのです。

日本企業はどうしても自社で何でも手がけてしまいがちなのですが、事業戦略上で重要なのは自社で何をやるのか何をやらないのかというビジネスのスコープを決めることです。ある事業が今のところ儲かっていたとしても、自社で手がけるのはやめて外に出し、全体としてもっと儲かるように戦略を練ることが必要になってきます。どの企業でも赤字になったら事業をやめますが、これは戦略ではありません。むしろ、まだ儲かっているような事業をどうするかが戦略です。日本企業はちょっとでも儲かっているとどんどん広げていきがちです。しかし、そういうことをしていると、他の企業との間でオープンネットワークを構築して、Win-Winの関係に持っていくことが難しくなります。

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