No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Scientist Interview

現代では、ビジネスモデルと製品アーキテクチャーが1対1に対応する

──アップルは、製品の製造をほとんど中国や台湾の企業に任せていますね。

アップルは、インテルとはまた別のやり方で製品のアーキテクチャー(ソフトウェア、ハードウェアの両方を含んだ製品全体の設計)を作り、オープンネットワークを構築しています。アップル製品の強みはハードウェアとソフトウェアが極めて密接にリンクしていることにあり、半導体などの製造を外部に任せても、十分な付加価値を獲得できます。製造も特定の企業に縛られることがありません。

アップルは製造を行う企業に対して、実にきめ細かくノウハウを教えています。アルミニウムを削り出してボディを作る方法から、製造装置や部品の調達先などもどんどん教え、工場の立ち上げも支援します。スマートフォンを作ったことがない企業も、短期間で製造ができるようになります。その一方で、OSやユーザーインターフェイスなどのソフトウェア部分は自社で行っています。半導体の設計(アプリケーションプロセッサー)も自社で行っています。このような強みがあるので、製品の付加価値が100あったとしたら、アップルが95を持っていって莫大な利益を上げています。

では、製造を行う企業が搾取されているのかというとそうではなく、製造能力を向上させて別の企業の仕事も受けられるようになるし、自分のブランドを立ち上げることもできる。シャープを買収しようとした台湾企業のFoxconnもそうやって力を付けていきました。これがWin-Winのモデルであることは間違いありません。

──他の企業に何を任せるか、任せないのかを明確に決めていると。

そうです。アップルの場合は、ソフトウェアを自社で担保した上で、製造を外部に出し、最後の流通やブランディングのところは、再び自社内で行なっています。アップルストアという直営店の売上は、すべてアップルのものになりますから。

このように製造部分のみをオープンにするパターンもありますし、先に述べたインテルのように規格をオープンにして、すべて他の企業に任せるというパターンもあります。

──その設計こそが、ビジネスモデルを作ることなのですね。

その通りです。そして現在では、ビジネスモデルと、製品自体のアーキテクチャーが密接にリンクしています。

かつては、製品のアーキテクチャーとビジネスモデルは別物として考えられていたのですが、今はほとんど1対1の対応関係になっていますね。iPhone/iPadなら、プロセッサーは自社設計で、製造は外部の半導体メーカーに任せる。液晶パネルは仕様に合致する部品を複数のメーカーから調達する。ボディは、製造技術をメーカーに教えて作らせる。OSは内部で完全に開発し、完成品の多くは自社の直営店で販売するといった具合です。

製品アーキテクチャーとビジネスモデルをうまく作ることで、特定の企業に利益が集中しやすくなります。これはアップルやインテルを見ればよくわかるでしょう。

──利益が集中しやすいと、いろいろ問題が起こるのではないでしょうか。

オープンイノベーションやオープンエコノミーと言われている新しい産業環境では、特定の企業、とくにプラットフォーム企業に利益が集中しやすいことが知られています。政府の役割としては、国際競争力のためにこういうプラットフォーム企業の創出を支援する一方、消費者が不利になっていないのか、きちんと調べる必要があります。つまり、イノベーションを阻害せず、同時に消費者の利益を守れているか、ということを常に政府が監視する必要があると思います。

オープンイノベーションが先行している欧米では、試行錯誤して解決策を見出そうとしています。かつて、マイクロソフトがブラウザのInternet ExplorerをOSに搭載したことが独禁法違反だとして訴えられました。今後は、電子書籍やアプリを販売するプラットフォームが得ている手数料が妥当かどうかということも問題になってくるでしょう。米国では連邦公正取引委員会を中心に活発に調査を行い、場合によっては訴訟も行っています。しかし、日本の独禁法当局は伝統的な価格カルテルや談合などへの対処が主であり、新たなイノベーションに関連する問題に対応できていません。今後、この分野はいろいろな対処が必要になってくると思います。

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