No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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マス・カスタマイゼーションの思想

しかし、人の「ほしい」はさらに多様化し複雑化していく。特に、20世紀後半の最も大きな「ほしい」の多様化と変化は、市場環境のグローバル化によってもたらされている。現在自動車産業の主な市場は新興国に移りつつある。巨大市場としての中国、インド、ASEAN諸国と南米。ブラジルの人の好みと、中国人のニーズは全く違う。消費者の嗜好はそれぞれの市場で差異があり、最適化をしないと競争に勝つことができない。価格帯の違いもある。2008年にインドで30万円程度の格安自動車が発売され話題になったが、日本や欧米の一般的な価格帯で展開しても勝負にならない。コスト削減要求もより苛烈になるのだ。

こうした状況に対応するために現れたのが、マス・カスタマイゼーションと呼ばれる製造手法である。マス・カスタマイゼーションの概念は2000年前後に登場している。大量生産(マスプロダクション)の体制も確保しつつ、多様化する顧客ニーズにも対応する、という考え方である。個々の商品の製造ラインを、個別最適の設計で提供することを「フル・カスタマイズ」と呼ぶ。顧客ニーズに応じて固有の部材を用意し、製品を用意する方式である。一方の「マス・カスタマイズ」は、少数の部材の組み合わせによって商品のバリエーションを実現する方式である。

フル・カスタマイズとは、粘土で車をつくることに当たる。トラック、乗用車、消防車。作りたい車を、粘土で一つ一つ個別に作る。一方のマス・カスタマイズは、ブロックでいろいろな車を作るやりかただ。共通化されたいくつかの種類のブロックを組み合わせることで、どんな車も作ることができる。部材は最小限にしつつ、多様な商品を生産するのだ。

フルカスタムとマス・カスタマイゼーションの図表
[図表2] フルカスタムとマス・カスタマイゼーション

つまりマス・カスタマイゼーションで必要とされるのは、部品や製造ラインの高度な共通化である。T型フォードを生産していた段階でも、部品の共通化は行われていたが、マス・カスタマイゼーションでは、よりダイナミックで柔軟な共通化を要求されている。自動車製造においては、この共通化は「プラットフォーム」をベースにして行われてきた。プラットフォームとは、自動車の骨格にあたるフレームやサスペンション、ステアリングなどの機能を提供する一連の部品群を共通化して、複数の車種を製造できるようにする枠組みのことを指す。例えば自動車メーカーのAという車種とBという車種。デザインや内装、エンジンの種類なども違う別の車だが、共通のプラットフォームでそれぞれの設計・製造を行うことで、開発期間の短縮や、設計、製造ライン整備、金型等のコストを圧縮することができるのだ。

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