No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Scientist Interview

ITが生み出す
ものづくり

 

2013.11.29

清水 亮 (ユビキタスエンターテイメントCEO/天才プログラマー認定)

ユビキタスエンターテインメント社が開発した「enchantMOON」は、No UIという全く新しいコンセプトのインターフェイスを採用したタブレット端末である。同社は元々、携帯電話やスマートフォン向けのミドルウェアやアプリケーションなどを開発してきたソフトウェア会社であり、その開発力には定評があるが、ハードウェア製品の開発は、「enchantMOON」が初めてである。彼らがハードウェア分野に進出した理由とITに精通した"ならでは"のものづくりについて、CEOの清水氏にうかがった。

(インタビュー・文/石井 英男 写真/MOTOKO)

イントロダクション ── enchantMOONとは?

Photo:Ubiquitous Entertainment Inc.

enchantMOONは、ユビキタスエンターテインメント社が2013年7月に発売した8インチ液晶搭載タブレット端末である。静電容量式のタッチパネルとデジタイザーペンを搭載しており、指と付属のデジタイザーペンを使って操作を行う。Androidをベースにしているが、OSレベルから徹底的に手を入れた独自OS「MOONPhase」を搭載。一般的なiPadやAndroid端末では、アイコンを多用したGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)によって操作を行うが、enchantMOONでは、そうしたアイコンを一切排除した「No UI」(ノー・ユーアイ)*1と呼ばれるユーザーインターフェイスを採用したことが最大の特徴だ。No UIは、画面の好きなところに指で丸を書き、その中にペンでコマンドを書くことで、操作を行うという革新的なユーザーインターフェイスである。ハードウェア面では、折りたたみ可能なハンドルを備えていることが特徴。ハンドルは持って移動できるだけでなく、本体を立てるためのスタンドにもなる。また、MOONBlockと呼ばれる独自のビジュアルプログラミング環境を搭載していることも魅力の一つ。ブロックを並べていくだけで、プログラミングが可能になっている。作成したプログラミングはシールという形で管理され、シールを貼り付けることで、そのプログラムを利用できる。従来のタブレット端末の常識を覆す、革新的な製品であり、予約開始と同時に注文が殺到した。

ハードウェアもソフトウェアの一種と考えている

──ユビキタスエンターテインメントは、これまでさまざまなソフトウェアを開発してきて、ソフトウェアベンダーとしての実力は高いと思いますが、なぜ、enchantMOONというハードウェア製品の開発に取り組むことになったのでしょうか?

僕らはまず前提条件として、ハードウェアもソフトウェアの一種だと思っています。全く新しいソフトウェアを作ったときに、その意味を正しく伝えるには、既存のOSでは限界があります。enchantMOONと似たようなものは、iOSやAndroidで動くアプリとして作ってきました。しかし、それはあくまでも、そのOSの世界観があり、その上の一部分でしかないわけです。僕らが実現したいことが、アプリケーションだけでは実現できなかったんですね。それで、OSレベルから手を加えて、新たな製品を作ることにしました。例えば、iPadの電源を入れてスグ、紙のノートのようにペンでメモを取りたいと思っても、iPad自体はそもそもそういうことを想定して作られていませんから、必ずロック画面が表示されて、さらにアイコンが並ぶ画面が表示されますよね。それでは、自分達が本当にやりたいことを実現するために、ハードウェアのパッケージとして丸ごと販売したほうがいいだろうと考えて、プロジェクトがスタートしました。

──enchantMOONの革新的なところは、そうした紙のノートの置き換えを目指して、一からハードウェアを設計したところだと思いますが、そういう発想はいつ頃からあったのでしょうか?

僕がコンピューターに触れたのは、小学生の頃でした。その当時の子供としてはちょっと珍しかったかもしれませんが、家にパソコンがあって、でもプログラムするしか遊び方がなくて…しかし一方、学校では紙のノートで勉強しなくてはいけないという状況でした。僕はずっとパソコンを触っていたいのに、我慢して紙のノートを使っていたのです。それで、あるときノートパソコンを学校に持っていって、それでノートを取ろうとしたんですが、これが全然とれない。次に、板書をとろうと思っても、数学とかは100%無理だったんです。キーボードで数式は書けないし、当時はマウスもなかったので、図も書けませんでした。その次に、国語とか社会ならメモを取れるかやってみたのですが、それすら無理でした。先生が斜めに線を引いて、ここになんとかの時代があって、ここになんとかの時代があってというようなグラフィカルな表現は、キーボードでは難しくて、子供の頃からキーボードの限界を感じていました。一方、黒板は黒板でまた不便な部分があって、そもそも人間が手で書いたものを、別の人間が模写するというのは効率が悪いですよね。最近、ケータイにカメラが付くようになり、当たり前のように板書を撮影していますが、ちょっと前だったら、そんなことも誰もやらなかった。そうした問題を、いつか誰かが解決するのかと思って待っていたのですが、誰もそれをやろうとしないので、自分でやってみようと考えました。似たようなものは過渡的には出てきていますが、コンピューターに行きたいのか、紙に行きたいのか、中途半端なものしかなくて。「どうやったら紙のノートをデジタルに置き換えできるのだろう」というテーマは、ずっと昔から持っていたのです。

iPhoneが出たときも、新しい時代の文房具になるのではないかと一所懸命考えていたのですが、なかなかソフトだけでは実現できなくて…外から見て、一発で違いがわかるような、拠り所が必要だと考えました。今ハードウェアって、基本的にはオーダーすれば作ってもらえますし。ただ、タブレット端末で、enchantMOONのような新しいものが作れたことは、ソフトウェア的な発想があったからだと思います。

──そのあたりは、既存のメーカーにはない柔軟な発想ですね。

既存メーカーだと、そもそもこんなニッチな商売はできないと思います。

紙の手書きの感触をデジタルで置き換える方法を探していた。の写真
[写真] 紙の手書きの感触をデジタルで置き換える方法を探していた。
Photo:Ubiquitous Entertainment Inc.
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