No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Scientist Interview

No UIが実現するスケーラブルマルチユーザーインターフェイス

──enchantMOONを触ってみて、一番驚いたのはやはりNo UIです。この発想は面白いと思いました。アイコンとか全く表示されないので、賛否両論がありそうですが。

いやもう、社内でも、それはすごく言われました。頭の固い人がたくさんいるので、味方はほとんどいませんでした。No UIそのものは、僕が考えたわけではなくて、プランナーが考えたのですが、そのプレゼンを見たときに、やるなら、これくらい滅茶苦茶なことをやらないとダメだろうなと思いました。僕らが新しいことに挑戦するという意志が伝わることも重要だと考えました。これは、誰もがやろうとして、できなかったことでもあるのです。わたしは、No UIを「スケーラブルマルチユーザーインターフェース」と呼んでいますが、最終的に机と壁全部をコンピューターにしようという発想です。例えば、ホワイトボードくらいの画面がWindowsだとすると、スタートボタンの位置が決まっているので、そこまで移動してタッチしないといけない。しかし、新しいことをするたびに、その都度移動しなきゃいけないのは馬鹿げていますよね?まだホワイトボードのサイズだから移動も可能ですが、壁全体に広がったら、操作性が格段に落ちてしまいます。SF映画の中では、壁全部がコンピューターとか、机全部がコンピューターという描写はよく出てきますが、誰もそれを実現するUIを考えていませんでした。それを初めて実現できるかもしれないと考えたのが、No UIなのです。一つの大きなコンピューターの画面の好きな場所で、ただペンで書けばその場がUIになる。同時に複数の人が使えるのです。また、今のキーボードは、規格が統一されどれも一定の大きさですが、No UIなら、ユーザーが書いた文字の大きさ自体がそのインターフェイスの最適な大きさになるので、物理的なデバイスサイズに制約されずに済むのです。そういった理由から、わたしたちは、No UIを「スケーラブルなユーザーインターフェイス」と呼んでいるのです。

アイコンがなく、ペンで書き込むインターフェイスであるNo UIの写真
[写真] アイコンがなく、ペンで書き込むインターフェイスであるNo UI。
Photo:Ubiquitous Entertainment Inc.

──確かに、アイコンで操作するOSは、デバイスの物理的な大きさによって使いやすさが変わってきます。最近だと超高解像度液晶も出ているので、適切にスケーリングしないと、アイコンや文字が小さくなって見にくくなりますね。

そうです。我々はそれこそ、Androidのフロントエンドをずっと作ってきたわけですが、対応するハードによって全部解像度が違うから、実は最適なボタン配置は全部違ってきてしまいます。今、iPhoneが頭一つ抜けているのはなぜかというと、あれは1社しか作ってないからです。Androidはハードのバリエーションがありすぎるため、デザインを統一できない問題があります。同じユーザーエクスペリエンスを提供しようとすると、無理が出てきてしまうわけです。そういうことも踏まえると、No UIは必然的に出てきたものでもあります。

例えば、アイコンってわかりやすいでしょうか? 今、"セーブ"を意味するアイコンのイラストは何を表していると思いますか?

──フロッピーディスクですよね。

そう。ですが、今誰も使っていないですよね。若い人が見たこともないものを、メタファーとしてまだ使っているわけです。アップルがMacintoshをリリースする前後にも、「アイコンって本当にいいのか?」、「本当にユーザーにとって便利なのか?」という議論がありました。iPhoneのアイコンがずらずらって並ぶメニュー画面が本当に美しいかというと、わたしはそうでもないと思っています。むしろ、アイコンが並んでいることによって、クリエイティビティを阻害されているような気がしています。例えば、カメラと言ったらお決まりのアイコンがありますが、「なぜ?どうして?」という印象です。アイコンに描かれているようなレンズは、iPhoneには付いていないわけですから。結局、常にイミテーションされているのです。

さらにいうなら、このアイコンにせよメニューにせよ、たくさん並んでいる中で、自分が欲しいものがどこにあるかわかるでしょうか。さらに、iPhone 5では、1画面に24個しか並べられないので、多くなったら左右にスクロールさせなきゃいけない。そうすると、最大でも同時に100個くらいしか操作できなくて、これが本当に便利なのか、わたしはイマイチ、ピンとこないのです。それに対する、一つの非常にラディカルな回答としてNo UIがありました。

──そうすると、enchantMOONで最も革新的なところというのは、ハードウェアなのかソフトウェアなのかっていうと、ソフトウェアのほうなのですね。

もちろん、圧倒的にソフトウェアですね。OSであるMOONPhaseとそのシステムを、そのコンセプトを体現するための器としてハードウェアが必要だと考えています。ただ、見た目が普通のタブレットと一緒だと誰もそれが新しいものだと認識しないから、筐体デザインをした安倍吉俊さんのアイデアで、わざとハンドルをつけました。

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