No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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規制緩和が産業用ロボット導入を後押し

2013年6月、内閣府の規制改革会議は首相に規制改革に関する答申を提出した。その答申の中で、産業用ロボット規制の見直しが表明されている。これまで日本では、労働安全衛生規則によって、モーター出力80Wを超える産業用ロボットを導入するには、柵や囲いを設けて、人を隔離し、設置しなければならないと規定されていた。しかし、海外では、適切なリスクアセスメント(リスクの見積もりや評価、低減の手段検討などの一連のプロセス)を行えば、日本のような特別な施設は不要である。今回の規制見直しは、日本でも産業用ロボット設置に関する規制を海外と同じようにするものである。この規制緩和により、工場を拡張することなく、既存の生産ラインに産業用ロボットを導入できるようになるため、国内製造業の設備投資の活発化や競争力底上げが期待される。

なお、NEXTAGEやバクスターは、出力80W以下のモーターを採用しているため、元々この規制の影響を受けていない。適切なリスクアセスメントを行うことで、人が作業する生産ラインへの導入が可能である。

人間とロボットが共存する社会へ

こうした新しいタイプのロボットの普及は、社会をどう変えていくのであろうか。まず、考えられるのが、人間の単純作業からの解放だ。人間は、同じ作業を延々と繰り返すことは苦手であり、作業ミスを完全になくすことはできないが、産業用ロボットは、そうした繰り返し作業を得意とする。ロボットが工場に進出していくことで、人間の仕事が奪われてしまうのではないかという考えもあるが、ロボットがあるからといって、人間の仕事がなくなるわけではない。パソコンが普及したことで、パソコンがなかった時代に比べて、仕事の効率は格段に向上したが、決して人間の仕事がなくなったわけではない。ロボットもそれと同じだ。もちろん、ロボットの普及によって、単純作業のような仕事は減っていくだろう。その分、人間ならではの創造力が必要な分野により力を注げるようになる。

また、次世代産業用ロボットは、日本をはじめとする先進国においては、製造業の空洞化を防ぐための有効な手段としても期待されている。製造コストの削減を狙った海外への工場移転に伴い、新しいモノを作り出す開発のための製造現場からのフィードバックが、いま得づらい状況になっているのだ。そのため、アメリカやヨーロッパの国々では、自分の国に工場を残さなくてはならないという意識を持つ国が増えてきており、日本も事情は全く同じである。そうした製造業の空洞化を防ぐための解の一つが、次世代産業用ロボットの導入である。付加価値の低い流れ作業を次世代産業用ロボットに任せることで、人間がより付加価値の高い作業に専念できるようになり、海外の安い労働力に対抗できなかった企業も対等に渡り合えるようになることが期待できる。産業用ロボットの民主化が、日本が今後もモノ作り大国でいられるかどうかを決める重要な鍵となりうるのだ。

Writer

石井 英男(いしい ひでお)

1970年生まれ。東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程卒業。
ライター歴20年。大学在学中より、PC雑誌のレビュー記事や書籍の執筆を開始し、大学院卒業後専業ライターとなる。得意分野は、ノートPCやモバイル機器、PC自作などのハードウェア系記事だが、広くサイエンス全般に関心がある。主に「週刊アスキー」や「ASCII.jp」、「PC Watch」などで記事を書いており、書籍やムックは共著を中心に十数冊。

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