No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
Cross Talk

対談を終えて

猪子 ── 実はうちの社内にも3Dプリンターはいっぱいありますよ。そういう意味ではファブラボと似ている感じです。

田中 ── 今世界で200か所ぐらいファブラボがあります。そうした機械を持っている場所同士で、遠隔で何か一緒にコラボレーションができるんですよ。こっち側で電子回路を作るから、向こう側で3Dプリンター用のデータを作る。すると、2か所で同じものが作れるんですよね。

日本とインドネシアとアフリカとヨーロッパの4個所などで同じ機材セットを持っていれば、同時にコラボレーションができる。そういう国境を越えた活動が今、面白いです。3Dプリンター共有サービスのようなアウトソーシング型では、頼んででき上がったものを受け取るだけですから。

猪子 ── 今日の話で、田中先生が考えている「機械を作る」という発想が僕は面白かったです。僕はマンション用みたいな、ファブラボに置くぐらいの規模感がいいかなと思っていたんだけど、勉強不足かもしれない。ピクニックに持って行けるタイプの方が、可能性があるかもしれない。

アメリカは軍の装備を真っ先に考えるじゃないですか。コスト効率とかも。かける予算も違うし、うまくいったら相当スゴいことになる。だから日本が勝てるとしたら、非経済な分野だよね。趣味の分野。

田中 ── あっ、趣味っていう言葉は好きじゃないな。今朝はアヒルの足を3 Dプリンターで修復*23したムービーを見ていたんです。すごく感動しましたよ。

猪子 ── お医者さんじゃないから、趣味と同じ意味でしょう。つまり非経済……と言ったらまた田中先生が怒るけど、お金を稼ぐためじゃなくやっている人たちのことです。

田中 ── 今までそれを趣味とか、非経済と言ってきたんだと思うんだよね、人々は。でも、これからはむしろそれこそが新しい意味の「経済」で、それこそが「仕事」になっていくという社会になると思う。

猪子 ── 僕も全く同じ考えです。そういう時代なんだというのは分かっていて、クライアントや経産省の人たちにも話はするんです、そっちの方が経済は大きくなるって。

田中 ── アマチュアとか素人って言うけど、ほとんどの人はそうかもしれない。でも、素人の中にスーパー素人みたいな人がいて、尋常じゃないんだよね。

例えば、ある知り合いの60代男性が定年退職して3Dプリンターを買い、ベンチャービジネスをやり始めたんですが、彼は無限に時間がある。そういう人たちが時間の限りで作ったものは、ものスゴい。そうした埋もれている人のクリエイティビティというのは生かした方がいいのではないかと普通に思いますよね。時間が資本なんです。

猪子 ── 僕もスーパー素人の存在はよく知っていて、チームラボでは個人でできる領域の仕事は絶対受けない、と決めています。それは最終的には個人に負けるから。

以前、iPhoneが出てきてアプリの仕事が業界でバブルだったときも、アプリに手を出すなと指示しました。個人が入れない方向へ、専門職の仕事へどんどん業務をシフトしたんです。今うちが作っているのは、建築家も必要だし、プログラマーも必要だし、CGのアニメーターも必要ですね。

田中 ── 僕も会社をやっていたらそういうふうにしたかもしれないですね。ただ、僕は大学の立場からやれることをやる。今、「ファブリーグ」というものを構想しているんですよ。ファブラボで世界一を決めるコンペなんです。やっぱりアマチュアが低く見られている状況を変えていきたい、アマチュアはスゴいんだということを示していきたいですから。

猪子 ── じゃあ、すぐに機械も作りましょう。15年後にブレークするものじゃなくて、1年後ぐらいにブレークするものからやらないと!

[ 注釈 ]

*23
アヒルの足を3Dプリンターで修復:バターカップと名付けられた、生まれつき左足が不自由なアヒル。3Dプリンターで作られたブーツ型の義足を与えられて歩き、泳ぐ様子がネット上にアップされ、海外メディアで話題となった。
https://www.facebook.com/pages/Buttercup-Gets-a-New-High-Tech-Foot/249819438489067

Profile

猪子寿之(いのこ としゆき)
※写真左

ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表

1977年生まれ、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。チームラボは、プログラマ・エンジニア、数学者、建築家、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、CGアニメーター、絵師、編集者など、情報社会のさまざまなものづくりのスペシャリストから構成されている。サイエンス・テクノロジー・アート・デザインの境界線を曖昧にしながら、WEBからインスタレーション、ビデオアート、ロボットなど、メディアを超えて活動中。

国立台湾美術館にてチームラボ「We are the Future」展を開催。「メディアブロックチェア」が経済産業省の「Innovative technology」に採択(2012)。香港の国際アートフェア「アートバーゼル香港」にて、新作「世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う」を発表(2013)、大阪の「堂島リバービエンナーレ2013」にて、新作「憑依する滝」を発表(2013)など。タッチパネル式の次世代受付システム「FaceTouch」と成田国際空港に常設展示中の「世界はこんなにもやさしく、うつくしい」(紫舟+チームラボ)が デジタルサイネージアワード2013を受賞。「teamLabBody」が Unity Awards 2013のBest VizSim Projectを受賞。

HP: http://www.team-lab.net/

facebook: http://www.facebook.com/TEAMLAB.inc

twitter: @teamlab_news

田中浩也(たなか ひろや)
※写真右

慶應義塾大学 准教授
SFCソーシャルファブリケーションラボ代表

1975年札幌市生まれ。工学博士。98年京都大学総合人間学部基礎科学科卒業。卒業論文「建築形態の4次元デジタルデザインに関する研究」で日本建築学会優秀卒業論文賞。2000年京都大学大学院人間環境学研究科修了。

東京大学人工物工学研究センター(00年)、東京大学空間情報科学研究センター(01年~03年)で研究活動を行う。2003年東京大学工学系研究科博士後期課程修了。

京都大学情報学研究科COE研究員(03年)、東京大学生産技術研究所助手(04年)、慶應義塾大学環境情報学部専任講師(05年〜08年)を経て、08年より慶應義塾大学環境情報学部准教授。10年マサチューセッツ工科大学(MIT)建築学科客員研究員。

02年度 経済産業省未踏ソフトウェア開発支援事業・天才プログラマースーパークリエイター賞、グッドデザイン賞新領域部門など受賞多数。

著書に『FabLife―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』。共著に『いきるためのメディア——知覚・環境・社会の改編に向けて』『Fab―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』『FABに何が可能か 「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』など。

10年「ファブラボジャパン」発起人として、新しいものづくりの世界的ネットワークを準備。11年に鎌倉市に「ファブラボ鎌倉」を開設した。13年8月、FAB9:第9回ファブラボ代表者会議(http://www.fab9jp.com)実行委員長を務めた。

http://fab.sfc.keio.ac.jp/

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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