No.008 特集:次世代マテリアル
連載02 人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集
Series Report

第2回
クルマの燃費、安全性、信頼性、
快適性を決める半導体

 

  • 2015.03.31
  • 文/伊藤 元昭

モータリゼーションの時代を拓いた「フォードT型」が登場したのは1908年のこと。それから100年以上経った今も、自動車の進化は止るどころか加速しているように見える。IT業界の巨人であるGoogle社が自動運転車の開発を始め、気鋭の経営者Elon Musk氏が設立したTesla Motors社の電気自動車が富裕層に飛ぶように売れる。最近のクルマに共通するのは、急速なエレクトロニクス化だ。その心臓部が半導体である。半導体がクルマの性能・燃費・安全性・信頼性・制御性・快適性を決める時代になった。

自動車業界は、電動化と電子化を競う新しいステージに突入した(図1)。その動きを支えているのが半導体デバイスである。現在、そして未来の自動車産業の発展は、半導体技術の進歩とともにある。

電動化と電子化で自動車は新しいステージに入った図
[図1] 電動化と電子化で自動車は新しいステージに入った

自動車は走るコンピューター

自動車に搭載されている電気・電子システムは、大規模化し続けている。燃費、安全性、信頼性、快適性、利便性の向上など、あらゆる側面から自動車の価値向上を支えている。導入される部分も、パワートレイン系、安全系、ボディ系、シャーシ系、情報系とありとあらゆる部分に広がっている。その結果、自動車の部品コストに占める電気・電子関連システムの割合は、2010年には35%、2030年には50%にまで拡大すると予想されるまでになった。では、自動車には、どのような半導体デバイスが使われているのだろうか。

近年、これまで機械仕掛けで制御されていた部分が、コンピューター上で動くソフトウェア制御へと次々と置き換わっている。多いものでは約6500万行のソフトで制御されている。このため、マイコンやメモリーで構成される車載コンピューター「ECU (Electronic Control Unit:電子制御ユニット)」が、自動車には当然のように使われている。ECUは、一般的な自動車でも約50個、高級車の中には200個搭載されている。つまり、自動車は、コンピューターによる分散処理システムでできているのである。そして、これからもさらに増え続けていく傾向にある。最近では、より負荷が大きい処理に、マイコンに代わってFPGA (Field Programmable Gate Array:ロジックを自由に組み替えることにできるIC)と呼ぶ新しいデバイスも使われるようになった。マイコンはソフトによってさまざまな機能を実装するが、FPGAはプログラムを書き込むことで、高性能な専用回路(ハード)を自由に作ることができる。

先端半導体デバイスのショーケース

さらに、機械部品を動かすモーターに、駆動電流を供給するパワー半導体が重要な役割を果たしている。そして近年、にわかに重要性を高めているのが、センサーである。ドライバーの操作、自動車の動き、周辺環境の変化を検知するために多種多様なセンサーが使われるようになった。クルマに搭載されるセンサーの数はECUの数よりも多い。他にもまだ、半導体はある。アナログ信号を扱うパワー半導体や、センサーとECUの間をつなぐA-Dコンバーター(アナログからデジタルへの変換器)やD-Aコンバーター(デジタルからアナログへの変換器)、バッテリーの電圧を変換するDC-DCコンバーター。モーターの回転数を自由自在に変えられるインバーター。分散配置された半導体デバイスの間で、制御信号やデータをやり取りするためのネットワーク制御回路やインターフェース回路、信号を切り替えるスイッチであるMOS FETなどなど。

ここで強調しておきたいのは、自動車に搭載されている数々の半導体デバイスは、性能面や品質面で、紛れもなく先端の製品であることだ。かつてはIT機器などと比較すると、数世代前の成熟した製品を使うことが多かったが、今では最先端の製品が使われるようになってきている。

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