No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
Scientist Interview

イノベーションのモデルは運送会社

──そうしたことすべてがバーチャル・ケアセンターから可能になるということですね。

そうです。ただ面白いのは、バーチャル・ケアセンターを建設すると言うと、患者はどこか遠くにいるけれど、専門医はみなその建物の中で仕事をしていると勘違いされがちなことです。しかし、そうではありません。われわれがやろうとしているのは、アーカンソー州にいる患者をミネソタ州にいる医師が診察したり、それにさらにボストンの神経科医が関わったりするといったことです。そう、日本の医師に診てもらうこともあるかもしれません。

──つまり、必ずしもここ一カ所から診療が行われるのではなく、バーチャル・ケアセンターを核にして、医師と患者を広いネットワークで結ぶということですか。

その通りです。どこにいても、必要な時に必要な医療が受けられるようにするわけです。ちなみに、これに必要なテクノロジーを実現するのは、それほど難しいことではありません。ほとんどのテクノロジーはすでに別の産業で使われているもので、それを違ったやり方で活用します。ですから、この場合のイノベーションとは発明ではなく、変化をもたらすということになります。そして、いろいろな場所にいる患者と医師を結びつけるというバーチャル・ケアセンターで実現しようとしていることは、実は運送会社がよく熟知しているのです。

──運送会社ですか。

アメリカには優秀な医師がいて、優れた臨床のテクノロジーもあります。ところが、医療を広く行き渡らせるデリバリーの部分がうまくいっていません。要は、すべてロジスティックスの問題なのです。これまで診察予約があると言うと、病院やクリニックを訪問することを意味していたのですが、今後は、一方の医師ともう一方の患者がクリックひとつで結ばれることを指します。それは、工場から出荷された荷物が、広く50箇所に間違いなく配送されるよう調整するのと似ているのです。

──バックエンドのテクノロジーは、どのように開発しているのですか。

バーチャル・ケアセンターには強力なIT部門があり、約1年前に1億ドルを投資してデータセンターも建設しました。ここには、実際に行われるデータ処理の4倍のキャパシティーを持たせています。テクノロジー面では何社かのベンダーと協力しています。eICUソフトウェアはVISICU社が開発したもので、電子医療記録にはエピック・システムズ社のテクノロジーを使っています。モバイル・アプリはわれわれが独自に開発しました。こうした基盤の上に、さらにデータを有効利用するとどうなるか。これに関するパイロット・プログラムをすでに1件、敗血症に関して行っています。敗血症は全身性の炎症で、死亡率が50%という恐ろしい病気です。敗血症は、心拍数上昇と同時に呼吸数が上がると2時間以内に発病する割合が高いのですが、その2時間の間に抗生物質などを投与して介入すると、症状の進行を抑えることができます。そこでわれわれがやっているのは、eICUでモニタリングを行いつつ、患者の電子医療記録のデータを分析することで早期に症状を発見して介入することです。これによって死亡率を80%低下させ、過去9ヶ月間で100人の生命を救うことができました。テクノロジーを統合すれば、なかなかすごいことができるという実例です。

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