No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
Topics
ライフスタイル

アニマルセラピー的な効果が見込める癒やし系ロボット

今後は、肉体的なアシストを行うロボットも重要だが、楽しみや安らぎをもたらす癒やし系ロボットの需要も大きくなると予想されている。癒やし系ロボットの代表が、産業技術総合研究所が開発した「パロ」である。パロは、タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルにした癒やし系ロボットであり、外界からの刺激や昼夜のリズム、気分といった3つの要素から生き物らしい行動を生成する。さらに、なでられると気持ちがいいという価値観を持ち、なでられた行動が出やすくなるように学習し、飼い主の好みへと近づいていく。名前をつけて呼びかけるとその名前に反応するので、動物とのふれあいにより、心の病を治療するアニマルセラピーと同じような効果が得られる。パロは、2005年3月から販売が開始されており、日本国内だけでなく、デンマークやオランダなど、世界各国の高齢者施設や病院などで導入されている。

また、イフーが販売している「よりそいifbot」は、高齢者の脳の健康を目的として開発されたパートナーロボットである。計算やなぞなぞ、記憶ゲームなど、脳をトレーニングする11のコンテンツと4つの情報系コンテンツが搭載されており、毎日使い続けることで、脳の活性化を促し、認知症を予防するというものだ。また、ロボットと会話をすることで、孤独感や寂しさをやわらげ、老人性うつなどの予防にもつながる。

左:癒やし系ロボット「パロ」の写真 右:高齢者向けパートナーロボット「よりそいifbot」の写真
[写真] 左:産業技術総合研究所が開発し、世界各国で使われている癒やし系ロボット「パロ」 右:イフーが販売している高齢者向けパートナーロボット「よりそいifbot」

助成金や貸与などの普及を後押しする施策が求められる

このように日本は、介護/アシストロボットの研究開発においては、世界の最先端を走っており、今後はマイスプーンやパロのように、海外展開を行うロボットが増えてくるであろう。これから、日本社会の高齢化がさらに進んでいくことは確実であり、その実用化には大きな期待がかけられている。ロボットの助けを借りることで、身体の不自由な高齢者が心豊かに暮らせる社会は、もうすぐそこまで来ているのだ。

しかし、こうしたロボットが広く使われるようになるには、やはり価格の高さがハードルとなる。例えば、パロも1体約40万円程度しており、個人が気軽に購入できる価格ではない。介護/アシストロボットの中には、助成金の対象となったり、介護保険の「貸与」品目に該当するものもあるが、こうしたロボットの普及を後押しするためのさらなる施策が求められる。公的扶助だけでなく、レンタルやリースなどの、より導入しやすいプランの拡充も大切である。こうした施策により出荷台数が増えれば、価格も下がり、さらに普及が進むことになるだろう。できるだけ早い段階で、こうしたポジティブスパイラルに乗せ、介護/アシストロボット市場を確立させていくことが重要であろう。

Writer

石井 英男

1970年生まれ。東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程卒業。
ライター歴20年。大学在学中より、PC雑誌のレビュー記事や書籍の執筆を開始し、大学院卒業後専業ライターとなる。得意分野は、ノートPCやモバイル機器、PC自作などのハードウェア系記事だが、広くサイエンス全般に関心がある。主に「週刊アスキー」や「ASCII.jp」、「PC Watch」などで記事を書いており、書籍やムックは共著を中心に十数冊。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.