No.007 ”進化するモビリティ”
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自転車重視を鮮明にするEU

自転車に関して先進的な取り組みを続けてきたのは間違いなくEUである。EU諸国が自転車政策で世界に先行しているのは、古くからの自転車文化の後押しがあることと同時に、もうすこし深い背景がある。それはEUが掲げる「移動の保障」という理念である。市民はEU内を自由に移動し、労働し居住する権利がある。自動車中心の都市設計では、自動車を使わない人々は移動の自由を制限される。バスや電車などの公共交通も、有料であること、そしてロンドンでのテロ事件のような事故によって機能がダウンしてしまう可能性がある。中心市街地に自動車を入れない政策を多くのEUの都市が導入しているが、そこでは歩くことや公共交通以外にも、パーソナルで効率のよい移動手段が必要とされる。その移動の自由を担う存在として、自転車が大きくクローズアップされたのである。

またEU圏内では、移動の自由が保障されているため、都市同士の競争が激しくなっている。人が集まり、企業も集まって、都市が発展していくためには、都市自体の魅力を高めなくてはいけない。そのため、都市の公共空間の利便性や暮らしやすさ、安全性などを拡大していくために、自転車環境の整備が進んでいるという背景もある。

こうした流れの中で、たとえばEUでは国を超えた自転車道路の巨大ネットワークが整備されつつある。ヨーロッパサイクリスト連盟が進めているユーロベロ(EuroVleo:http://www.eurovelo.org/)と呼ばれるこの道路網は、各国内で整備されている自転車用道路をEU全体としてネットワークし、自転車による移動の自由を実現しようとするものである。

の写真
[写真] http://eurovelo.org/wp-content/uploads/2011/07/Schematic-Diagram-Test.jpg

こうした動きをもとに、自転車による新しい経済圏という見取り図も具体化してきている。欧州委員会委託の2012年の調査によると、毎年22億件の自転車旅行とそれに付随する2000万件の宿泊、結果440億ユーロの経済効果があるという。*1

また、運輸面での自転車の活用も本格的に検討されている。自動車の代わりに自転車で様々な荷物を運んではどうか、という考え方である。EUが資金を提供して行われたプロジェクトで、都市圏における化石エネルギー利用を減らすために、宅急便やB2Bの配送、そして買い物などの家庭の荷物の運搬に自転車を活用すると想定した場合に、自動車から自転車にどのくらいの割合でシフトが可能なのかを調査したものである。それによると、重さや距離などの条件を考慮した数字だが、およそ50%の荷物の輸送は自転車で代替できるという。

http://www.cyclelogistics.eu/docs/111/CycleLogistics_Baseline_Study_external.pdf

これを見ると、EUは本気で自転車を社会の一員として組み込もうとしていることがよくわかる。EU内の都市における具体的な自転車とのつきあいかたを次に見てみよう。

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