No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

海外留学で、国内の潜在的な市場に気づく

──メーカーにデザイン提案しているのが、磯村さんが2013年にモックアップを発表した「gp1」(http://www.gp1.jp)ですね。

現在はある企業組合と製品化の話が進んでいます。カテゴリーとしてはシニアカー(高齢者が利用する一人乗りのハンドル型電動車いす)で公道走行できる仕様です。前輪をベルトドライブで駆動します。光造形(紫外線に反応し、硬化する液体を用いて、精密な立体物を短時間で作成する技術)でつくった本体は、アルミと樹脂製です。三角形にした理由はワンアクションで折り畳めるようにしたかったからですね。

マンションで生活しているシニアカーユーザーは、その置き場所に苦労されています。折り畳めば設置面積が世界最小の「gp1」は玄関先に置いても気になりません。また旅行などのアクティビティを楽しみたい方の、クルマに積載したいというニーズもある。加えて、そもそもシニアカーは福祉機器のようで、乗りたくないという方も多い。
そういった現状のなか、「gp1」のデザインであれば、乗ってみたいという方が多く、手応えを感じています。

三輪での安定性や走破性の向上などの課題をこれからクリアしていきます。プロトタイプはもっと早くにできますが、量産してリリースできるのは早くて1年半から2年くらいはかかる気がしています。

 

──磯村さんは独立前、富士フイルムの在籍時には乗り物のデザインを手がけることはなかったと思いますが、パーソナルモビリティに関心を抱いたきっかけは何ですか?

2009年9月に退社した時、これから創業する上で、活動の規範となる原体験を持ちたかったんです。デザイナーとして、どういう社会を創りたいのか?というイメージです。そこで当時「世界一幸せな国」といわれていたデンマークに留学しました。留学先の学校は障害者と一緒に学ぶという学校で、160人中60人程度が障害者だったんですね。

デンマークは社会保障給付が潤沢な国。ある障害者は、マニュアルの車いす、電動車いす、それを載せるリフト付きバン、シャワー用車いす、ビーチ用車いすなどを所有し、これが全て国から支給されていました。そして、スポーツや旅行などの楽しみのためにポジティブに活用していました。それらは、日本における福祉機器の"使わなければならないモノ"ではなく、"使いたくなる魅力的なモノ"だったのです。

また、ヨーロッパでは多くの中小企業が様々なパーソナルモビリティを開発していました。英国の「TGA」というメーカーはシニアカーをつくっているのですが、ハーレーダビッドソンやレーサーレプリカのバイクを模したようなデザインがある。時速12〜3キロ出るから行動範囲も広くて、ユーザー同士で仲間になりツーリングをしていたりする。日本のイメージとは全く違う。

市場規模は、日本だと年間1万3000〜4000台くらいなのに対して、英国はたしか年間5万台ほど。人口比にするとかなりの普及率です。海外では着実に市場が伸びているんですね。

私自身もいずれ高齢になり、使いたいと思う時がくる。その時に、使ってみたいと思えるパーソナルモビリティが普及していて欲しい。年齢に関係なく、いつまでも活き活きと暮らすためのツールを日本に根付かせたいと思ったのが、きっかけです。

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