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ポストグラフェン候補に、
リンの原子膜物質が名乗りを上げる

2014.3.10

黒リンから剥離されるphosphoreneは、次世代半導体材料の候補だ。

身近な元素であっても、構造が変わればまったく新しい性質を持つようになる。最近では、原子一層分の厚みしかない原子膜物質が注目を集めている。
原子膜物質として広く知られるのが、炭素の原子シートであるグラフェンだ。グラフェンは、非常に高い電気伝導率を持ち、材質としても安定している。
ただ、半導体材料として見ると、自然な状態のグラフェンにはバンドギャップがないという課題がある。バンドギャップというのは、電子が自由に動ける伝導帯と、電子が動けない価電子帯の間隔のこと。金属ではバンドギャップがないため、いつでもよく電気を流せる。ゴムなどの絶縁体はバンドギャップが非常に大きいため、エネルギーを与えても電子が伝導帯に行くことができず、電気が流れにくい。一方、シリコンなどの半導体では、ある程度のエネルギーを与えることで、電子は価電子帯から伝導帯に移動して電気が流れる。つまり、半導体はエネルギーを加えることで、電気が流れるかどうかをコントロールできるスイッチとして動作させることができるわけだ。
ヘリウムイオンビームを照射したりイオン性分子を塗布するなどして、グラフェンにバンドギャップを生じさせる研究も行われているが、グラフェンに変わる原子膜物質の探索も熱を帯びている。二セレン化タングステンや二硫化モリブデンのほか、単一元素の原子膜物質としては、ケイ素の二次元結晶シリセン(silicene)や、ゲルマニウムからできたgermaneneも次世代半導体材料として期待されている。また、2013年末にはスタンフォード大学の研究チームが、スズの原子膜物質staneneについての発表を行っている。
そして、2014年1月、米パデュー大学や、中国科学技術大学の研究チームは、リンの原子膜物質phosphoreneについて発表した。いずれも粘着テープを使って黒リンから2〜3原子の層を剥離したという。まだ単原子層のphosphoreneは得られていないが、電子の移動速度はすでに二硫化モリブデンに匹敵するという。phosphoreneは他の原子膜物質に比べて安定しているといった長所もあるが、作り出すには高圧環境が必要など課題も多い。はたして、次世代の半導体を担うのは、どの物質だろうか。

(文/山路達也)

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