Science News

超高速に点滅するメタマテリアルが、
水中通信を進化させる

2014.3.31

メタマテリアルは、光の屈折方向を逆にするなど、自然界にありえない現象を可能にする。
Credit: Liu Research Group/UC San Diego

水中における通信には、さまざまな制約がある。海中では電波が減衰しやすいので、通常の短波を用いることができないのだ。潜水艦が海上と連絡をとるためには、超長波(VLF)や極超長波(ULF)が使われるが、通信速度が遅いという欠点がある。潜水艦同士など、比較的近距離の通信には水中音響通信が用いられるが、これはクジラやイルカに悪影響があるといわれている。
また、光を使った通信については、長距離のレーザー通信が米軍などで研究されているほか、短距離であればLEDを使った可視光通信も使われるようになってきている。ただ、一般的なLEDの点滅は1GHz(1秒間に10億回)以下であるため、高速なデータ通信には不十分で、光が到達する範囲も短い。しかし、メタマテリアル(電磁波に対して自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質)を使うことで、水中での光通信が劇的に改善されるかもしれない。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のZhaowei Liu博士らの研究チームは、銀とシリコンを層状に配置したメタマテリアルを使うことで、従来に比べて光の点滅速度を76倍に向上させることに成功。開発されたメタマテリアルは、特定周波数の蛍光を発する分子と相互に作用する。現在のところ、黄緑色の光を発する分子に対応しており、青や緑のLEDに対応したマテリアルの開発が次の目標となる。青や緑の光は、水中で他の色より吸収されにくいため、水中通信には不可欠なのだ。
水中で高速なデータ通信が可能になれば、潜水艦同士の近距離通信だけでなく、新しい利用方法も生まれる可能性がある。例えば、海中や海底にセンサーを配置して、リアルタイムに水中の様子をモニタリングすることが今よりも容易になれば、生物研究や資源探査の分野にも大きな影響を与えそうだ。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.