Science News

電流のように、熱流をコントロールできるデバイス

2014.4.21

熱の流れる方向を制御できれば、まったく新しいデバイスや断熱材が生まれるかもしれない。

エレクトロニクス技術を支えている素子にダイオードがある。ダイオードには電流を一方向にしか流さない整流作用があり、電流の逆流防止や、交流-直流の変換、電流や電圧の安定などに利用されている。
このように流れる方向を制御できる電流と違い、熱の流れる方向は制御できず、あらゆる方向に均等に流れていく。しかし、パデュー大学 Xiulin Ruan博士らの研究チームは、コンピュータシミュレーションによって、熱流の方向を制御できるデバイスが実現できる可能性を示した。
シミュレーションの結果によると、「非対称グラフェン ナノリボン」というグラフェン(1原子の厚さの炭素原子のシート)でできた三角形の微細構造には、「熱整流器」としての働きがあるという。つまり、ある方向には熱が伝播するが、その逆方向にはほとんど熱が流れないようにできる。熱の正体は原子の振動だが、非対称グラフェン ナノリボンではその振動の方向が制限され、整流器になる。グラフェンだけでなく、台形やピラミッド型など、非対称なナノ構造を持った他の物質も熱整流器になりうるという。熱整流の効果を起こすためには材料の幅が十分に小さい必要があり、材料の種類によっても異なるが、だいたい数ナノメートルから数百ナノメートル程度のサイズになる。
熱整流器はまだ理論的な可能性が示された段階だが、従来のエレクトロニクス機器とは異なる原理で動作するさまざまなデバイスを作れるかもしれない。従来型のエレクトロニクス機器の排熱で動作する熱トランジスタや熱メモリができれば、さまざまな分野の消費電力を大幅に減らすこともできそうだ。Ruan博士によれば、服やビルなどの断熱材としても応用できるという。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.