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糸も針も不要! ナノ粒子で傷口を塞ぐ新手法

2014.7.18

ナノ粒子を溶かした水溶液を使って、傷口をすばやく塞ぐ新手法が開発された。
Credit: Prof. Dr. Anne Meddahi-Pellé

外科手術では、今でも糸と針を使って傷口を縫合する手法が広く行われている。しかし、縫合にはさまざまな短所もある。まず、縫合できる部位が限られること。体の奥深く入り組んだ箇所を縫合するのは難しいし、内臓のように柔らかい器官は縫合でダメージを受けてしまう。近年では、手術用の接着剤も発達してきたが、これも万能ではない。接着する箇所が十分に湿潤で、接着した箇所にしばらくの間圧力をかけておく必要もある。また、接着剤の成分によって組織が炎症を起こすこともあるので、使えるケースは限られる。
フランスCNRSのLudwik Leibler博士、INSERMのDidier Letourneur博士らの研究チームは、上記の課題を克服できる可能性のある新手法を開発した。
この手法は、極めてシンプルである。ナノ粒子を溶かし込んだ水溶液を傷口に塗り、傷口を1分ほど塞ぐだけだ。実験では、二酸化ケイ素と酸化鉄のナノ粒子が使われた。
水溶液に含まれるナノ粒子は傷口の表面に即座に拡散し、体組織の分子同士を結びつける。1つ1つの結びつきは弱くてもナノ粒子の数は膨大なので、接着力は非常に強力になる。従来の接着剤のような化学反応は起こらず、組織同士を直接結びつけるため、傷の治癒プロセスを阻害することもない。
ラットを使った実験では、縫合の難しい肝臓からの出血でも、ナノ粒子を使った手法ですばやく止血できることが確認された。また、研究チームは、同じナノ粒子を含ませた生分解性の薄い膜を作成。この膜を、拍動している生きたラットの心臓に貼り付けることにも成功。
この手法は、内臓などの手術や治療を容易にするだけでなく、新しいドラッグデリバリーシステムの開発にもつながるのではないかと期待されている。

(文/山路達也)

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