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1ピクセルのカメラで、体組織の深部を探る

2014.9.29

ディフューザーを置いてぼやけさせたチェシャ猫の絵も、新開発の1ピクセルカメラで光の変化パターンを読み取らせることにより復元できた

生物医学の分野では、対象を光学的に直接観察する光学イメージング技術が注目されるようになっている。X線や超音波に比べて、光学イメージングは非侵襲性(生体を傷つけない)で、サンプルを動いている状態で観察できる、費用が安い、被爆がないといった利点がある。しかしその一方、光学イメージングは、組織の深部を観察できないという弱点がある。粘膜の表面から1ミリメートル下に病変があったとしても、現在の光学イメージングでそれを探知するのは難しい。
組織内部の光学イメージングを行うために、スペインのジャウメ1世大学、バレンシア大学の研究チームは画素が1ピクセルの光学システムを開発した。
デジタルカメラについての一般的な認識では、撮像素子の画素数が多いほど、画質は上がるということになっている。しかし、光量が非常に少ない環境の場合、光が別々の素子に分散してしまうと、写真のノイズがひどくなってしまう。こうした場合には、単一の素子に光を集中させた方がよい。素子が1つであっても、圧縮センシング技術を利用することで解像の高い画像を得ることができる。圧縮センシングとは、まばらに計測した不完全なデータをコンピュータを使って合成することで、完全なデータを復元するという手法だ。生体内では、組織が生きているため、素子に入る光は変化し続けている。通常の手法だと動いている対象を撮影するのは難しいが、圧縮センシングであればそうした光の変化自体も画像を復元する上での手がかりとなる。
研究チームは、サンプル画像の手前にディフューザー(光を拡散させる撮影機材)を置き、実験を行った。通常のカメラではノイズしか写らないが、開発した光学システムを通すと元の画像が正確に復元することができた。今後研究チームでは、光を精密に制御できる空間光変調器を用いて、この手法が生体組織内部の撮影にも使えるよう開発を進めていく予定である。

(文/山路達也)

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