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自在に形を変え、
欠損した骨の再生を助ける人工骨

2014.10.14

スポンジのような外見をした形状記憶ポリマー。熱を加えることで自在に形状を変えられる。
Credit: Melissa Grunlan, Ph.D.

事故や、先天性疾患、骨肉腫の手術など、さまざまな理由から骨に大きな欠損が生じることがある。このような時には骨の移植手術を行うわけだが、その代表的な方法は、自分の骨を使う自家骨移植か、人工物で補う人工骨移植になる。ただ自家移植では腰などから骨を採取する必要があるため、体への負担が大きい。また、骨を欠損部分にぴったり合うよう短時間で加工するのは非常に難易度が高い。
そのため人工骨に注目が集まっているが、現在の人工骨にも課題は多い。リン酸カルシウムを焼き固めた人工骨は、自家移植の場合と同じように形状を合わせる必要があり、手術後にも体内に残ったままになる。
テキサスA&M大学のMelissa Grunlan博士らは、こうした課題を解決する可能性を持った人工骨を研究中だ。
研究チームが開発したのは、熱を加えることで形状を変化させることができる、形状記憶ポリマー(SMP:shape-memory polymer)という素材だ。インプラントに広く使用されているε-カプロラクトンという生分解性の物質とSMPを結合させ、多孔質のSMPフォームを作成した。
SMPフォームは硬めのスポンジのような外見をしている。60度くらいに熱するとSMPフォームは柔らかくなって、自由に形を変えられるようになる。移植手術を行う外科医は、患者の欠損部位に合わせてSMPフォームの形を整え、ポリドーパミンという粘着性の物質でコーティングして、欠損部位を埋める。SMPフォームが人間の体温くらいまで冷やされると、固まって部位に固定される。
SMPフォームは多孔質なので、骨の元となる骨芽細胞が入り込んで成長できるようになっている。最終的には、SMPフォームは自然に分解され、新しく再生された骨だけが残る。
今後、研究チームは、動物を使った口腔外科手術でSMPフォームの実証実験を行っていく予定だ。

(文/山路達也)

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