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「電子の鼻」で病気をかぎ分ける

2014.11.17

下痢や腸炎を引き起こす、クロストリジウム-ディフィシルを臭いで判別する。
Photo by CDC/ Lois S. Wiggs

病原菌の感染が疑われる場合、細菌の種類に応じたさまざまな検査が行われる。例えば血液や痰、尿、便などを培養するなどして細菌が検出されるか判定するわけだが、病原菌の特定が速ければ速いほど、感染の防止や適切な治療をスピーディに進められる。そして、いま、迅速な判定のために注目されるようになってきたのが、「臭い」による検査だ。
英レスター大学の研究チームが発表したのは、クロストリジウム-ディフィシル(Clostridium difficile)という細菌を臭いで判別するための手法である。クロストリジウム-ディフィシルはヒトや動物の腸内に生息しており、下痢や腸炎といった症状を起こす。抗生物質に抵抗性があり、病院や老人ホームで集団発生することもある。2012年には、クロストリジウム-ディフィシルによってイギリスだけで1646人が死亡している。しかし、これまでは症状から診断するか、患者の便に含まれる(クロストリジウム-ディフィシルが生成する)毒素を手がかりにするしかなかった。
研究チームは、クロストリジウム-ディフィシルから発生するわずかな揮発性有機化合物(臭い)を、質量分光器を使って直接分析する手法を開発。クロストリジウム-ディフィシルにはいくつか系統があり症状や治療法が異なってくるが、そうした系統の違いを揮発性有機化合物で判別できることを示した。細菌の培養が不要なため、迅速な判別が可能になり、感染が疑われる患者から便のサンプルを採取して、質量分光器にかければどの系統のクロストリジウム-ディフィシルかが即座に判定できるのだ。
臭いを病気の診断に活用する試みは、オランダのアムステルダム・メディカル・センターでも行われている。同センターでは、喘息のある児童106名の呼気に含まれる揮発性有機化合物を分析し、5つのグループに分類。年齢や症状が異なる患者であっても、呼気の特徴を判別することで、より適切な治療を行えるようになるとしている。

(文/山路達也)

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