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擬態するイカにヒントを得た新素材

2014.11.21

MITとデューク大学の研究チームが開発した新素材。電圧を掛けることで、色や質感を変化させることができる。
Credit:Xuanhe Zhao and Stephen Craig

イカやタコといった頭足類は、環境に合わせて皮膚の色や質感を瞬時に変える、優れたカモフラージュ能力を備える。こうした頭足類の能力を再現した新素材を作り出そうと、世界中の研究者が取り組んでいる。
MITのXuanhe Zhao准教授とデューク大学 Stephen Craig教授らのチームが開発したのは、色と質感を同時に変化させられる柔軟な素材である。これはエラストマー(ゴムのような高分子化合物)の一種で、電気で活性化する性質を備えている。素材に電圧をかけると、滑らかだった表面がでこぼこになり、同時に色合いも変化する。頭足類の皮膚には色素の粒子が散在しており、筋肉を伸縮させると粒子の形状が変化して光の透過率が変わるが、この性質を素材開発のヒントにしたという。研究チームはこの素材を軍用のカモフラージュや船舶の外殻(船殻)に応用することを検討している。船殻にフジツボなどの生物が大量に付着すると推進力が損なわれてしまうが、電圧を掛けて表面を変形させることで、付着物の90%をすばやく除去できるという。
一方、ライス大学Naomi Halas博士らが開発したのは、1ピクセルが5マイクロメートル四方と、一般的な液晶ディスプレイより40倍も精細なフルカラーディスプレイである。研究チームが使ったのは、棒状になったアルミニウムのナノ粒子(ナノロッド)だ。ディスプレイの1つのピクセルには長さが100ナノメートル、幅40ナノメートルほどのアルミニウムのナノロッドが数百本含まれている。長さや間隔を変えてナノロッドを配置し、これらに光を透過させることで多様な色を表現できる仕組みだ。現在の液晶ディスプレイに使われているカラーフィルターに比べて、ピクセルを精細にできるほか、長期間露光しても色落ちしない、偏光フィルターとしての機能も備えるといったメリットがある。ライス大学の研究チームはすでにアルミニウムを使った光検知素子などの技術も開発しており、これらとアルミニウムナノロッドのディスプレイ技術を組み合わせることで、周囲の環境に応じたパターンをシートに表示する技術を目指すという。

(文/山路達也)

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