Science News

超音波で、培養細胞の足場を作る

2015.1.5

ウシの肝臓組織に超音波を照射すると、細胞外マトリックスという構造が残る。これが細胞を培養するための足場になる。
Credit: T.Khoklova/UW

再生医療の課題の1つに、細胞の効率的な培養がある。患者の組織幹細胞を採取し、細胞培養皿で培養して組織を作成、再度患者に移植するというのが再生医療の基本的な流れだが、培養皿から細胞を剥がすには酵素を使う必要があり、細胞表面のタンパク質を壊してしまうことがある。そのため、温度変化によって細胞が剥がれやすくなる特殊な培養皿など、細胞培養を効率化する取り組みがさまざまな研究機関で進められている。
ワシントン大学Yak-Nam Wang博士らが開発したのは、超音波で細胞の足場を作る手法だ。元々、研究チームはヒストトリプシー(histotripsy:組織破砕)というガン治療の手法を研究していた。ヒストトリプシーとは、ガン性の腫瘍に超音波を照射して組織をバラバラにして死滅させるというもので、破壊された細胞は老廃物として体外に排出される。
研究チームが高出力の超音波を照射するヒストトリプシーの実験をウシの肝臓組織に対して行っていたところ、ヒストトリプシーでバラバラにされた組織に、基質(細胞内の、特に構造が認められない部分)や脈管(体液を通すためのさまざまな管)が残っていることがわかった。これは細胞外マトリックスと呼ばれる構造で、細胞を培養するための足場にすることができるのだ。細胞外マトリックスは患者自身の組織から作り出されたものであるため、同じ患者の細胞を培養する際の免疫反応が理論的には少ないという利点がある。(ちなみに、化学物質や酵素を使って、腫瘍をたたく手法では、腫瘍と共に、細胞マトリックスも破壊してしまう。)
現在、研究チームは動物の腎臓や肝臓の組織から細胞外マトリックスを作る研究を進めており、将来的には体内での有効性を検証する予定だ。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.