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水素製造触媒と
エネルギー貯蔵の機能を兼ね備えたフィルム

2015.1.13

ライス大学の研究チームが作成した二硫化モリブデンのフィルム。高効率の水素発生触媒と、キャパシタとしての機能を備える。
Credit: Tour Group/Rice University

材料工学の分野では、原子1〜数個程度の厚さしかない二次元構造の物質に注目が集まっている。例えば、炭素の二次元物質であるグラフェンは、高い電気伝導率や、鋼鉄以上の強度といった特徴がある。
ライス大学James Tour博士らの研究チームが注目したのは、二硫化モリブデンという物質だ。この物質は、硫黄の層がモリブデンの層を上下から挟んだ三層構造になっている。この二硫化モリブデンを含む、層状カルコゲナイドという化合物は、水の電気分解で水素を発生させる際の高効率な触媒になることが以前から知られていた。しかし、触媒として機能するのは物質の端(三層構造が見えている側)だけで、平面部分は不活性であるため、低コストに触媒を作ることができなかった。これまでの研究では、多数の二硫化モリブデンのシートを積み重ねて、端の部分を触媒にしようとしてきた。
しかし、James Tour博士らは二硫化モリブデンで多孔質(微細な空孔をたくさん持つ性質)のフィルムを作るアプローチを採用した。研究チームは、まず一般的に行われている陽極酸化皮膜の技術(例えばアルミニウムに陽極酸化皮膜を施して耐食性を高めたものがアルマイト)を使って、多孔質の酸化モリブデンのフィルムを室温環境で作成。次に、酸化モリブデンのフィルムを300℃の硫黄の蒸気に1時間さらして、二硫化モリブデンのフィルムを作ることに成功した。こうして作られたフィルムには、ナノサイズの穴が無数に開いており、そこには二硫化モリブデンの端の部分が露出している。一般的に行われている低コストの製造手法で、触媒として機能する端の部分を最大限作ることに成功したわけだ。低コストでありながら、このフィルムは従来の二硫化モリブデンと同等の性能を発揮できるという。
また、この二硫化モリブデンフィルムは、水素発生触媒以外に、スーパーキャパシタ(蓄電装置「電気二重層キャパシタ」の総称)としての機能も備えている。スーパーキャパシタはバッテリーほど大容量の電気は蓄えられないが、短時間で充放電ができ、寿命も長いのが特徴だ。研究チームが二硫化モリブデンフィルムでスーパーキャパシタを作成して実験したところ、10,000回の充放電サイクルの後で90%、20,000回の充放電サイクル後でも83%の充電性能を維持できたという。
水素発生とスーパーキャパシタの機能を併せ持つことで、これまでにないエネルギーデバイスが実現できるかもしれない。

(文/山路達也)

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