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細胞の「石化」技術で、新素材を作り出す

2015.2.9

石化した脾臓の組織。ナノメートルレベルで、元の組織の構造が保持されている。 Courtesy of Sandia National Laboratories

生きた細胞を「石化」させる技術が、これまでにない材料を生み出すことになるかもしれない。
サンディア国立研究所のBryan Kaehr博士、ニューメキシコ大学のJason Townson博士らは、2012年に細胞を石化する技術を開発した。生きた細胞を、pHを適切に調整したシリカ溶液に浸けると、細胞の内外がシリカでコーティングされる。コーティングされた細胞を熱すると、ガラス状になった細胞の3次元構造だけが残る。電子顕微鏡で観察したところ、元の細胞の構造が極めて正確に保持されていることがわかったのだ。
この細胞石化技術は、すでにさまざまな分野で利用されている。例えば、幹細胞が分化していく様子、ガン治療用の薬剤が細胞に与える影響なども、細胞の構造ががっちりと固定されていると調べやすい。
また、化学物質で変形させた赤血球を石化して作ったマイクロ粒子は、タイヤのゴムなどの強度を上げるために使える。特殊な形状のマイクロ粒子を一から合成するより、食肉産業で廃棄されている血を石化してマイクロ粒子を作った方が消費エネルギーも製造コストも低く抑えられるという。
そして、2014年12月に研究チームがNature Communicationsに発表した論文では、石化技術のさらなる応用が示されている。研究チームは、シリカ溶液につけ込んだ肝臓や脾臓の組織を酸素のない状態で熱して炭化させた。炭化した肝臓・脾臓は、元の組織の構造がナノメートル単位で正確に保持されている上に、導電性も高い。血管が複雑に入り組んだ肝臓や脾臓は小さなサイズでも表面積が大きいが、こうした構造を電極として使うことで大容量のバッテリーを実現できる可能性があるという。

(文/山路達也)

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